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自分が着ている襟が伸びきったシャツも、体のところどころにある不自然な怪我も、風呂に入れずにいることにより発せられている体臭も、見る人が見れば、彼が暮らす家庭環境が普通ではないと容易に推察できるのには充分な材料だったが、両の手で数えても指が余るくらいの年齢の大雅は、自分が『強者』を演じていれば、家のことなどばれるはずがないと思っていた。実際に周りのヤツらは、大人も子供も、大雅になにも言ってこなかった。本当に気付いていなかったのか、見て見ぬふりをしていたのか、あるいは水面下ではなにかが起こっていたのか、結局大雅には知る由もなかった。
大雅が虐めていた少年の名は、『ケイジ』といった。名字は覚えていない。ただ、教室の隅の方でいつも本を読んでおり、話しかけると困ったように微笑みながら言葉を返してくる気弱そうなヤツだった。
大雅にはそれが気に入らなかった。幼い大雅が『ケイジ』という言葉の響きだけを聞いて連想するのは、鮮やかに事件を解決し、犯人を捕らえる刑事だったからだ。
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