第一章

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 コイツにはそんな強い名前なんて相応しくない。弱虫が、一丁前に強そうな名前を名乗るな。ケイジに対して、そう思ってしまったことが彼への嫌がらせをはじめるきっかけだった。  直接的な暴力は振るわなかった。筆箱を隠すとか、彼が読んでいた本を勝手に図書室に返すとか、授業中に消しゴムのカスを投げつけるとか、そういった陰湿な嫌がらせで満足していた。困ったように筆箱を探すケイジの姿を、教室の全然関係のない場所から眺めると、えも言われぬ優越感に浸ることができた。 ——ほら、オマエはケイジなんだろ。だったら、その筆箱を隠したのは誰なのか、犯人であるオレまでたどり着いてみろよ。  心の中でしかほざけない挑発は、いつまで経っても結局ケイジに届くことはなく、自分の期待とは裏腹に、ケイジが大雅に接触してくることもなかった。学年が上がらないうちに、ケイジは親の都合だかなんだかで、転校していってしまったのだった。 「……いただきます」 
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