第一章

1/62
前へ
/79ページ
次へ

第一章

 今日、髪を刈った。  これまでの自分を肉体からそぎ落とす儀式のように感じられた。床屋の店員には、「本当によろしいんですか?」と問われた。いいと思っているから、注文したんだろうと、また心に邪な感情が生まれたが、見ないふりをした。  藤堂大雅は、鏡に映った自分の姿をみて、苦笑した。別人だ。  作業を終えた店員が、箒で片付けているのは、つい先ほどまで自分の頭から生えていた髪の毛だ。肉体から強制的に切り離されたそれは、生気を失ったかのようにちりとりの中に吸い込まれていく。これは決別だ。過去の自分に別れを告げるための——やはり大雅にとっては儀式だった。 「まじ、すみませんでした。反省しています」  土下座をする。軽くなった頭を、床に擦りつける。鋭い視線が自分に降り注いでいるのを、大雅はひしひしと感じていた。 「頭を丸めた程度で、お前のこれまでの悪行が清算されるとでも思っているのか?」 「いえっ……そんなこと思ってません。これはオレのケジメで……」 「まじ……ではなく、『本当に』、思ってませんではなく、『思っていません』だ」 「はい!」
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加