【episode3】

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「天馬や麻里奈はリーダーと違うんですか?」 「個人でイチから新薬の開発に取り掛かれるの、全部で三人しかいないんだよ。だからチームとはまた別の扱いって言うか。そんなことも知らなかったの?」 「天馬も麻里奈も組織のことを教えてくれないですから。大地さんは、部外者の私にいろいろ話しちゃって大丈夫なんですか?」 「別にいいっしょ」  随分と口の軽そうな人……。  大地と上手く会話していけば追加情報を得ることができそうだ。しかしゴミ回収が終わって研究室に戻ったら、しばらく会えない可能性が高い。片付けが終わってから探りを入れてみよう。 「俺、堅苦しいのは苦手なんだ。夏希ちゃんも俺に気ィ遣うことないから。呼び捨て・タメ口でいいよ」 「……分かった」 「俺は上の階で実験やってくる。夕方には迎えに来るけど、早く終わったら食堂で待っててな。あと、間違っても一人でエレベーターを使おうとするなよ? 黒焦げの死体になっちゃうからね」  大地がエレベーターの方へ去っていくのを見届けると、《dust》と書かれている部屋へ入った。薄暗くひんやりとした室内。部屋の半分ほどの面積を陣取っているのがゴミ収集ボックスのようだ。横幅二メートル前後といったところ。奥面はぴったりと壁に張り付いている。高さは私の頭を越すほどあり、脚立を使わなければボックス上面の蓋に手を掛けることができない。  脚立に乗り、鉄製の重い蓋を開けてみる。  中は空だった。  ゴミ袋はどれも小さかったため、下から放り投げてしまえばいいだろう。  そこでふと思いついた。  バキュームカーを使うということは、外界からこのボックスまでゴミ袋の〝通り道〟があるということ。ゴミ袋が通るなら、私でも通り抜けられるかもしれない。  思い切ってボックスによじ登り、中へ降り立つ。ボックス奥面に円形の鉄板が貼りついていた。マンホールのように見えるこれが〝通り道〟に違いない。押し開けられないかと思い力を込めたものの、びくともしなかった。逆に引っ張ろうにも、指を掛けられる箇所が存在しない。  駄目……か。  落胆の気持ちが大きいが、ぼんやりしているわけにもいかない。  廊下へ出ると、手前の部屋から順に回った。各部屋の前に置いてあるゴミ袋は三つ程度。一度に運べるのは四つ前後だ。両手にゴミ袋を抱え、ひたすら廊下と回収ボックスを往復する。  久々に階段の上り下りもして、作業終了時には疲れを感じていた。体力的に疲れたのはここへ来て初めてかもしれない。とはいえ人が血を流すのを見る仕事に比べたらずっと楽だ。  回収ボックスの蓋を締め、食堂を訪れた。普段使っている場所よりテーブル数が多いものの、広さは同程度だ。まずは手を洗い、椅子に座って大地を待つ。しばらくして、見たことのない男性研究員が三人やってきた。 「誰だよ、この女」 「実験でここに来たヤツじゃねーの?」 「あー、《D.H.》の中にいた城之内製薬の人間ね」  不躾な目でこちらを見ながら、男性研究員たちは食事の注文をし始めた。 「城之内製薬にいたからって使いモノになるとは限らないんだから、さっさと実験に回してくれれば良かったのに」 「ホントだよ。《D.H.》なんて在庫が多ければ多いほど助かるんだから」 「監禁されてる研究員っつーより、ただの〝命拾い女〟だよな。上の考えることはサッパリ分かんねー」 「それは言うな。バレたら身体を切り刻まれるかもしれないぜ?」  部外者の私が気に入らないのか、わざわざ声を大きくして嫌味っぽく会話している。それでも手を出されないだけマシだ。
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