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香坂 蓮(こうさか れん)
私達の通う中高一貫の女子高で、
全寮制だ。
心の病は現代において深刻化している。
心に救った病は目に見える闇となって、
人々を襲う。
そんな闇を払う唯一の存在を
人は『天使』と呼んでいる。
私達はその天使となる為に、
社会からは離れたこの学舎で、
日々、勉強と研鑽を積んでいるのだーー。
「見て、藤咲さんよ」
友達の声に顔を上げると、
少し離れた渡り廊下を歩く人がいた。
白い肌に白く輝く長い髪。
彼女、藤咲凛は私達の学年でも、
この学校でトップの実力を持つ。
最も『天使』に近い存在だった。
勉強もトップなら実地試験もトップ。
学生ながらに既に実際に現場へと赴き、
祓うこともあるそうだから、
彼女の力が私達と比べて、
どれだけ抜きん出ているかは
言うまでもないだろう。
……見た目からして正に天使な彼女だけど、
それを裏切らない実力。
同級生だからこそ私の憧れだった。
でも藤咲さんはあまり人と親しくすることが
好きではないみたいなんだよね。
仲良くしてみたいけど、
迷惑にはなりたくないし、
私はいつも遠くから彼女を見ていた。
けれど不意にキッカケは訪れる。
うっかりとドジをして足首を痛めて、
見学することになった体育。
なんと藤咲さんも見学だったのだ!
体育は合同でやるけど、
毎回、藤咲さんは見学で関わることも
出来なかった。
捻挫は痛かったし、見学もつまらないから
嫌だったけど話せるチャンスと思うと、
ドキドキして緊張してしまう。
「こんにちは、私も隣で見ていいかな?」
グラウンド脇に生えてる大きな木の下で、
見学することにしたらしい藤咲さんへと
思いきって声をかける。
藤咲さんは返事こそしなかったけれど、
一度、顔を上げて私を見ると視線を伏せて、
そっと横にずれてスペースを空けてくれた。
「……ありがとう」
やっぱり藤咲さんは優しい人だと確信する。
嬉しくて緩む口元を堪えながら、
私は隣に座った。
授業は滞りなく進んでいる。
藤咲さんは本を読んでいて、
話しかけるのも悪いので、
私はボーッとしながら授業を眺めた。
眺めながらチラチラと藤咲さんを見てしまう。
だって彼女が読んでる本!
私も大好きな本なんだもんっ、
えぇ~、めちゃめちゃ語りたい!!
……私の周りで読んでる人、
いなかったんだよね~。
「何?」
「え?」
突然、藤咲さんが口を開く。
視線は本から動かさないまま。
「さっきから見てるから。
何か言いたいことあるの?」
「ご、ごめんなさいっ!
読書の邪魔しちゃった?
……その本、私も読んでて、
すごく好きな本だから気になって」
読書の邪魔をしてしまったことを
申し訳なく思いながら謝る。
「あぁ……これ長編シリーズだけど」
「そう!そうなの!
面白いよね?私は特に
ウィステリアの話が好きで」
「私はロータスが好き」
藤咲さんの言葉に思わず赤くなってしまう。
物語はそれぞれ花の名前が
シリーズ名になっていて、
私の一番好きな話がウィステリア(藤)で、
藤咲さんが好きと言った話が
ロータス(蓮)だったのだ。
多分、藤咲さんは私の名前なんか
知らないだろうけど、
つい反応してしまった。
「顔が真っ赤よ、
香坂蓮(こうさか れん)さん」
クスリと笑う藤咲さん。
初めて彼女が笑うのを見て、
私は更に顔が真っ赤になるのを
止められなかった。
これが、私と凛の始まりーー。
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