香坂明臣(こうさか あきおみ)

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明臣は戸惑う蓮に言った。 「お前のことは妹としか見てなかったよ。 それは本当だ。 まぁでもいつまでもお前も 子供じゃないんだって、 改めて気づいた」 「ーー」 「結婚する気はなかったけど、 そう言ってられないのも事実だし、 それならお互いにお互いが一番いい。 ……そう思わないか?」 笑みを向けられ、蓮は安堵の息をつく。 やはり明臣は蓮のことを見てはいない。 けれど明臣の言い分もよく解った。 お互いの家の事情も今更、 説明する必要もない。 誰よりも味方でいてくれた人。 そして蓮も明臣にとって、 自身が唯一の家族なのだと解ってもいた。 明臣の母である叔母は明臣自身を 見ようとはしない。 香坂の当主である息子を愛しているから。 久しぶりに叔母を見て、 蓮は驚いたのだ。 浄化の力に目覚めてから、 蓮は顕在化していない闇も 目に見えるようになった。 そうして気づいたのは人は誰もが、 内に闇を秘めている、ということ。 誰しもが少なからず闇を持って、 生きている。その事実だった。 叔母は闇を秘めてはいなかった。 叔母の内は闇そのもの、 闇と一体化したように黒かった。 あのまま学舎で香坂と縁を 切ることも出来たのかもしれない。 それをせずに、蓮が香坂の家に戻ったのは 叔母を放ってはおけなかったからだ。 明らかに普通ではないと解る状態、 基本、顕在化した、闇しか相手にしない 凛も勿論、初耳。 どう対処すればいいのかも、 解らなかった。 けれど浄化が出来る自分ならば 対処できるかもしれない。 それを試すために、叔母と共に戻る ことを選んだのだ。 だから本当なら帰った時に明臣の誘いを 断り、叔母と共にいるべきだったのだろう。 それをしなかったのは、 向き合う明臣の内にも重い闇が見えたから。 きっとずっと明臣を蝕む闇だ。 解るのは今はまだ必死に 耐えている、ということ。 「……ごめんなさい」 「ーー」 「私が子供だったから、 明臣お兄ちゃんに頼ってばかりで」 「蓮?」 「香坂家も叔母さまのことも全部、 1人で背負わせた」 蓮より年上だとしても、 明臣も子供だった。 10年前、香坂家当主だった 蓮の両親が亡くなり、 父の実の妹だった叔母がまだ幼い蓮の 後見人となり、当主代理についた。 本来、香坂の当主となるのは蓮の役目だった。 勿論、財産に執着した叔母の思惑もあったが、 蓮にはとてもではないが背負う勇気がなかった。 香坂の当主として、 蓮を押してくれた人達へと背を向け、 ……明臣に押しつけたのだ。 涙を流す蓮に明臣は苦笑した。 「俺も母もどれだけお前に謝っても、 謝りきれない……、 それくらいのことをしてるんだぞ」 「……叔母様が、私の両親を殺したこと?」 蓮の言葉に明臣は息を呑む。 その表情に蓮の予想が確信へと変わる。 あの叔母の内なる闇との一体化の理由が これなのだろう。 大きな罪を犯した者は闇と一体化する ことがあると凛が言っていたから、 まさかとは思っていたが。 「でもあの時に……お兄ちゃんの お父さんだって亡くなってるよね?」 「……」 明臣の父は婿養子だった。 香坂ほどではないが、財閥の家系で、 跡継ぎではなかった為、 明臣の母と結婚し婿入りしたのだ。 記憶は微かだが、 優しくて穏やかな人だったはずだ。 ……あまり子供が好きではない叔母は 自分の子も例外ではなく、 明臣は小さい頃、よく父親である叔父と 一緒にいたのを覚えている。 「ーー父さんは、あの人を止められなかった。 ……助けようとしたんだ、でもっ」 間に合わず、自分も死んでしまった。 蓮の両親と明臣の父が犠牲となった火事、 それは不幸な事故と処理されている。 俯く明臣の肩が震えるのを見ながら、 蓮は明臣の内の闇が膨れ上がるのに気づいた。 罪悪感が、闇を刺激している。 蓮は明臣の手を取り、 ギュッと握った。 「ーー何にも、知らなくてごめんね」 「ーー」 「お兄ちゃんだけを苦しませて、 本当に……ごめんなさい」 蓮の言葉に明臣は首を横に降る。 蓮が謝ることではないのだ。 けれど溢れる涙を止めることも出来なかった。 「……私にとっても明臣お兄ちゃんがら 唯一の家族だよ」 だからどうか、もう苦しまないで欲しい。 蓮はそう祈りを込めて、 握った明臣の手に光を灯す。 その光がゆっくりと明臣の身体を包み、 染み込むように内へと吸収されれば、 明臣の内に潜む闇はかき消えていた。 涙を流しながら、 落ちるように寝息を立てる明臣に 蓮は滲んだ涙を拭って呟く。 「おやすみなさい、明臣お兄ちゃん」
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