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凛の家庭の事情
蓮が学舎と戻り、
すっかりと凛も日常を取り戻していた。
「もう長期休暇なんて早いな~」
「そりゃあ蓮はしばらく
登校してなかったからね」
学期末の試験勉強をしながら蓮が呟くのに、
凛は教科書を読み返しながら、
そこ間違ってるわよと指摘する。
登校していなかった分の勉強は
補講やレポートの提出で補わなければ
ならなかったし、
蓮の日々は地味に忙しかった。
正直、凛がいなければ乗り越えられなかった
とすら思っている。
蓮は凛から指摘された間違った問題を
もう一度、解き直す。
「そこ。これはーーでしょう?だから」
「うん、えっ、そうなるの??」
何度か説明はしたはずだが、
初めて聞いたように驚く蓮に、
凛はため息をついて、
また最初から解き方を説明していく。
補講やらレポートで大分、詰め込まれ、
きちんと理解が追い付いていない蓮だ。
「今度の長期休みは家へと戻るの?」
「うん、そのつもり。
和馬お兄ちゃんも退院したし、
一緒にお祝いしようって話してるんだ」
「それは良かったわね」
「凛はどうするの?そういえばいつも
一緒に寮に残ってたけど……」
「そうね、1人の家に戻る意味もないし。
今回も残ってダラダラしようかしら」
凛の言葉に蓮は勉強の手を止めて、
迷いつつも尋ねた。
「……その、聞いたことなかったけど、
凛の家族は……」
「ああ、両親が離婚しててね。
わたしは父親に引き取られたんだけど、
所謂、アル中だから入院してて、
家に帰っても1人ってわけ。
母さんと姉は海外で仕事も忙しいから、
寮で過ごしてるのよ」
凛は淡々と話すが蓮は色々とびっくりだ。
「それ……お父さん、大丈夫なの?」
「大丈夫よ、入院してんだから。
下手に退院して家にいるより
心配しなくていいし」
「そういうものなんだ……」
凛はニコッと笑った。
「アル中ってね色々とイメージあるけど、
病気なんだよ。
……だから専門家に診て貰わなきゃ治らない。
昔はともかく今は患者として診て、
接して貰える。
わたしも昔は父親のこと大嫌いだったけど、
悪いのは父親じゃなかったんだって知って、
家族としてどうすればいいのか学んで、
この世の中、色々あるけど、
知識として知っておくことで助かること、
回避できることがたくさんあるわ」
だから蓮も一生懸命、勉強しなさいと
凛は蓮の額をつつく。
「まぁ父親が働けないし、貧乏だから
天使としてわたしが
稼がなきゃいけないんだけどね」
凛はぐっと拳を握った。
蓮は何となく凛の逞しさの根幹を
見た気がした。
「それより遊ぶのもいいけど、
長期休暇中に遅れをしっかりと取り戻して
おかないと後々、大変だと思うの。
だから少し早めに戻ってくるかして……」
当然のように蓮の勉強を見るつもりで
凛はいるようだ。
こんな風に心から案じて、
行動してくれる人は中々いないと
蓮は知っている。
「もし良かったらだけどさ、凛」
「ん?」
「長期休暇、私の家で過ごさない?」
楽しい楽しい長期休暇の予定に、
辛い試験勉強も乗り越えられそうな
気がしてきた蓮だった。
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