香坂明臣(こうさか あきおみ)

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香坂明臣(こうさか あきおみ)

叔母と共に香坂の屋敷へと帰ることになり、 帰ったら蔵に閉じ込められるか、 それとも折檻かと構えていた蓮だったが、 現在、蓮は都内の高級ホテルで、 エステをしていた。 全身マッサージを受けて、 肌と髪を艶々にされたかと思えば、 薄く化粧までされて、 叔母に叩かれた頬は解らなくなる。 また制服を着て、店を出ると 上質なスーツを着た男性が、 笑みを浮かべ蓮へと手を振った。 「明臣お兄ちゃん」 蓮がそう呼んだ彼こそ、蓮の従兄であり、 婚約者でもある香坂明臣だ。 長めの前髪を左右にわけ、 黙っていると冷たそうな印象にとられるが、 蓮にとっては昔から優しい、 頼りになる兄だった。 今日も香坂の屋敷へと戻るなり、 明臣が出迎えて叔母から引き離して 何故かこの高級ホテルへと連れてこられたのだ。 「よし、じゃあ服を見に行こうか」 「服?」 「制服でデートは出来ないからな。 あと気に入ったのがあったら買うといい」 蓮はいらないと遠慮するが、 明臣ははいはいと返事をしながら、 ホテルに入っているブティックへと 蓮を引っ張っていった。 「……昔から何度も注意してるんだが、 これは詫びだ」 明臣が呟くのに蓮は苦笑する。 明臣は昔から叔母から蓮を庇ってくれた。 けれど明臣がいない時に 更に激しくなるだけ。 明臣も四六時中、蓮と共に居ることは出来ない。 蓮と明臣の年の差は10あるし、 蓮が引き取られた時には明臣は既に、 全寮制の学校へと通っていたから、 そう一緒にいることは出来なかった。 明臣は学校を辞めようとまでしてくれたが、 流石に蓮のためにそこまで させるわけにはいかない。 今日だって既に働いているはずの明臣が 昼過ぎに屋敷にいるはずがなかったのだ。 元々の予定ではなかったはずだ。 叔母も明臣の姿を見て驚いていたから。 「とりあえずここで飯にするから ワンピースを一着、買おう。 後はそうだな……、 もう少し若い子向けの店に行くか」 蓮はひたすらに戸惑ながら、 明臣やお店のスタッフに勧められるまま、 ワンピースを試着していた。 渋々だったけれど次々と可愛いワンピースを 着てどうしようもなく楽しくなっていく。 大きな鏡に自分の姿を映しながら、 くるりと回る。 ふんわり揺れる裾とちょっとレトロな ケープ風になった切り替えヨークに 笑みが浮かぶ。 「おっ、気に入ったみたいだな。 じゃあそれにしよう。 あと靴とバッグもこれに合わせて頼む」 「かしこまりました」 「明臣お兄ちゃん!?」 「まさかそのワンピースに制服用の、 ローファー合わせるつもりじゃないよな?」 明臣ににっこりと笑みを向けられ、 蓮は頷くしかなかった。 それから女子高生に人気のブランド店を 巡って明臣は蓮に服や小物までを 買い与えていく。 蓮は半ば諦めて付き合っていた。 「しかし……成長したな」 「何?いきなり……」 「いや、俺の中で蓮は 大体これくらいのチビで」 明臣が手で表すこれくらいは幼児としても 小さいぬいぐるみサイズだ。 幾らなんでもそこまで小さくはなかったと 蓮が怒るのに明臣は笑いながら謝る。 暗くなってきたのを見て、 レストランへ向かうかと 明臣が言ったので買い置きしておいた ワンピースを取りに戻り、 そこで着替えまでさせてもらう。 きちんとワンピースを着て、 明臣にエスコートされながら訪れた ホテルのレストランは最上階で、 個室だった。 蓮がマナーを知らなくても困らないようにと 配慮して個室にしてくれたことに 蓮は心から感謝した。 都内の夜景を一望出来るのに 高そうなレストランだなーと思いながら、 蓮は慣れない手つきでナイフを使って、 お肉を切って食べる。 学舎に入れたのは反対した叔母を 明臣が説得してくれたからだ。 なので報告も兼ねて学舎での生活が 楽しいこと、出来た友達のことを話す。 明臣なら喜んでくれると思ったから。 けれど明臣は蓮の話に顔を曇らせ、 真剣な顔になるとナイフを置いて、 口を開いた。  「なぁ蓮、結婚しないか?」 「ーーえ?」 突然のことに蓮は固まるしかない。 確かに蓮と明臣は婚約をしているーー、 ということになっている。 けれどそれは香坂の若き当主という立場の 明臣にやたらと寄ってくる女性への牽制と 蓮の保護も兼ねた措置だったのだ。 少なくとも2人の間では。 それに明臣は蓮を妹としてしかみてないし、 蓮も明臣を兄のように思っている。 そのはずだった。
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