4人が本棚に入れています
本棚に追加
「ま、待って。総理と話させて」
「何言ってる」
「狸の禁止は世の為じゃなく総理個人の都合だとしたら? それ確認しないとあたし成仏できない。化けて出てやるから!」
リーダーらしい警官が肩をすくめ、ハンドルを二回叩いた。フロントガラス全体が画面になる。
「どうぞ。音声がメールで総理に届きます」
あたしは大きく息を吸い込んだ。
「稔、2024年の佳奈です。総理になったんだってね。偉くなる人だと思ってたよ。なのにどうしてあたしと付き合ってくれたのかわからない。でもあたしはずっと好きだった。大好きだった。このところ言えなかったけど」
警官らが咳払いするが、この際恥とかはいい。
「何故言えなかったかっていうと、稔のせいです。ええ絶対稔が悪い。あたしは、会う必要ない日だって会いたかったの! 一緒に素敵なレストランで食事したかったの! 甘い物大好きだけど、稔に会う時はお洒落したくて痩せたかったの。お見合いって嘘ついたのは止めて欲しかったから!」
「おい。狸の話は?」
「今からよっ。稔もお見合いなんか嘘だと気付いてたでしょ? だから『すれば?』って言ったんでしょ? 狸の化かし合いみたいに。結局あたし達は破局した。それを後悔してくれたんじゃないの? 稔が狸を未来から消したのはそのせいだって……あたしはそう思いたい! だけど問題は狸じゃないよね。その解決策、おかしいよね!」
と、さざ波のような雑音が発生、どんどん大きくなり、銅鑼が続くような大音量に。
「ど、どうした?」
「何かがズレて――時空に歪みが――」
音はどんどん高くなり激しくなり、……そして急に止んだ。
やがて沈黙が、聞き慣れたカチャカチャという生活音に取って代わった。
最初のコメントを投稿しよう!