ぽん太広場の君へ

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 気付くと手首から手錠がなくなっていた。あの変な車も時間警察もいない。 「やっぱり足りないな」  カチャカチャ鳴っていたのは、あたしの手の中の泡立て器。生クリームを混ぜる音だった。目の前には大スポンジのタワー。 「だから言ったろ。自分で作るなんて非効率だ。専門業者に頼めって」 「み、稔? 何でいるの?」 「手作りウエディングケーキが間に合わないって呼びつけたのは佳奈だろ」 「総理なのに?」 「何言ってる? 俺は明日の式に向けていっぱいいっぱい。冗談に付き合う余裕はない」 「あたしと稔、結婚するの?」 「えっ……今更心変わり?」 「そ、そうじゃない……今、何年?」 「だから2024年。おかしいぞ、こないだの超長文メールから。未来がどうとか狸とか」 「それって」 「だから。お前が変だったから、俺そのまんまプロポー……」  いつだって明瞭で明快な稔が、語尾を濁らせた。  伝わったんだ、あたしの想い。あの全力のメールが、2054年の総理にじゃなく、ここにいる稔に届いたんだ。  あたしは、涙でかすんで消えないように、稔の腕をしっかりと掴んだ。
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