ぽん太広場の君へ

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 会社でのあたしの仕事は諸々の事務手続き全般。弁護士事務所との付合いもあって、そこで稔に出会った。  それまで楽しみだったそこへの届け物も、今となっては憂鬱。書類を渡しすぐに帰ろうとすると、稔がサッとお茶を淹れてきた。  出会った時と同じ。必要最低限の礼を、無駄な動きも余計なおしゃべりもなくこなす稔に一目惚れしたんだった。 「お前、またダイエット挫折したろ。クッキーの匂いがする」 「作ったけど失敗した」 「何で?」 「美味しくない。砂糖が存在しないって中で美味しく出来る訳がない。例え稔だってお手上げよ」 「何の話だ」 「いえ。余計なおしゃべりでした」  退散すべくドアを押すあたしの背に。 「俺ならサトウキビから作ってみるが」 「へ?」 「ないなら元から作る。やり方はネットで調べられるだろ。図書館という手もある。お前も納税者なんだから、自治体施設の利用は当然の権利だ」 「サトウキビって、フィールドオブドリームスのワサッとしたやつ? 沖縄じゃなくてもいいの?」 「サトウキビは九州以北の家庭で育てた例もある。ついでに言うとフィールドオブドリームスはトウモロコシだ」 「ふうん。稔ってやっぱり頭良い」 「頭が良いんじゃない。知識があるだけだ」 「何が違うの。面倒臭いなあ、もう」  あたしはとっととドアを出た。  でも。  いつだって困ってるとこんな風に、ムカツクけれど明快な答えをくれるのが稔だった。
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