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鯉のぼり、チューブの曲、銀杏――稔なしの半年が過ぎた。
サトウキビは収穫の段階まで育っていた。
「収穫って刈るんでしょ? やだ。せっかくここまで育てたのに」
「泣くな。来年も育てられるよ」
「刈った後は?」
「剥く」
「あの固いのを? 竹みたいなんですけど」
「鋸でぶった切るかハンマーでぶっ叩く」
「で、刻んでフードプロセッサで粉砕?」
「その後、布巾に包んで汁を絞る。そして煮詰めて――あたし、そこまで7時間かかった」
「うへえ」
言葉とは裏腹に、二人とも声は弾んでいる。
「ぶった切った時さ、指まで切れて大出血。あはははは」
「あはははは、あたしもそれやった」
「粉砕の時は刃が負けてプロセッサ壊れた」
「やっぱり?」
そんなこんなで何とか磨り潰した粉が出来た。
「これ本当にサトウ? 白くないよ」
確かに白とは言えないが。
「舐めてみた?」
「うん! もうこの世のものとは思えない、『幸せ』って味だった」
ああ……甘いって、そういう味だよね。
「で、クッキー、レシピ通り作ったよ」
「ど、どうだった?」
「さくっ、ざらっ、ふんわり」
「でしょ!」
「うん!」
二人共涙声で感動に浸る。
と、誠也君が急に。
「佳奈さん、好きな人いる?」
「な、何言うの」
「きっと良い恋してるよね。クッキー作りを原料の苗から始めるみたいに、一つ一つ最初から大事に全力で。佳奈さんならそうやって『好き』を育ててるよね」
大事に――全力で?
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