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寝室のダブルベッドで真由と一緒に寝る。
肌寒くなってきて出した毛布が、掛け布団の中で渦を巻くほど寝返りを
打ったのに、真由は横向きになって膝を折って背をまるめて眠っている。
まるで胎児のようだと見つめ、そっと後頭部に触れると温もりがあった。
そこで冷たくなった赤子を想い、鼻の奥がツンと痛くなって涙が出た。
鼻をすすりながら真由に毛布と掛け布団をかける。
真由は寝ても寝ても眠いそうだ。
俺は寝つきが悪く、変な展開の夢ばかりみて疲れてしまう。
どうにも状況が反対過ぎる。
俺たちはずっとこのままなのだろうか。
別々のカタチで崩れたままで過ごすのだろうか。
そんなのは孤独なだけではないのか?
急き立てられるようにベッドを降りた。
そして無性に甘い缶コーヒーが飲みたくなった。
味がするかどうかもわからないのに......。
玄関へと向かい、紺の上下のパジャマの上にコートを羽織って
財布を持ち、サンダルを履いて玄関のドアを静かに開けて外にでる。
近くの自販機まで歩くあいだにも、ジョギングをする者や銭湯に向かう者が
通り過ぎていく。
こんな真夜中にも人々の暮らしが垣間見れて、誰もがいずれ家路に着くのだ。
それは幸せか不幸せかを問いたくなった。
そんな自分はなんだろうと考えるうちに、近所の酒屋の前にある
自販機に辿り着いた。
そのとき。
車がきたので避けたら横で止まり、運転席の窓が開いた。
そこでタクシーだと気づいた。
「乗りますか?」と、中年男性が言ってきた。
「は?手なんて上げていませんよ」と、戸惑いながら言う。
だけど。
「もうどこかに行ってしまいたいかな」と、つぶやいた。
いま何が飲みたいとか明日も仕事だとか、それよりも鮮明な意識だった。
「じゃあ、いきましょう」と、後部のドアが開いた。
財布の中身からして行ける。
「どこでもいいです」と、乗り込んでしまった。
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