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「気が落ち着きそうな場所にしましょう」
運転手の男が言った。
車はゆるやかに街を抜けていく。
あぁ、そうか、それがいいのかもしれない。
「どうして生きているのかわからない、もうわからないんです」
そう告げてから先、懺悔のように俺は語り始めた。
『おめでとう』と、妊娠した人に平気で言っていました。
命が芽生えれば生まれてくるものだと思っていました。
自分に降りかかってくるまで知ることもなかったんです。
産声を上げて無事に健康体で長生きすることは当然じゃないと。
それを痛いくらいに思い知らされました。
それからずっと生きている意味が見いだせない。
楽しいとはなんだったか思い出せない。
妻を支えていく自身がない、泣くだけの自分が情けない。
文字通り味気なく生きるだけなら、苦しいだけなら、死ぬべきかもしれない。
死んだら、あの子のところへ行けるだろうか。
天国なんてものが本当にあるのなら、そこにいるのだろうか。
会いたい、会いたい、会いたい......もう一度この手に抱きたい。
ぬくもりを感触を確かめたい。
次第に声がかすれていった。
運転手の男は黙ったまま車を走らせた。
流れる景色と涙がちぎれていく。
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