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季節は移り、日が暮れるのが早くなった。
いまの俺にとっては更に気が滅入る闇だ。
駅から自宅までの道のりで急に泣けてきて、こんなに周囲が暗ければ
ひと目を気にする必要もないかと、泣きながら歩いた。
どうしても、なんの前触れもなく泣けてくる。
仕事中にも涙が出てきて、パソコンを叩く手を止めてポケットティッシュを
取り出して、涙を拭いて鼻をかんで、ひとしきり泣いてから業務に戻る。
同僚たちは察してくれていて、なにも言わない。
ときに、お茶をいれてデスクにそっと置いてくれる社員もいる。
その気遣いで、また泣けてしまう。
こんな俺でも雇い続けてくれる上司にも感謝しかない。
なんとか早く立ち直ろうと思っても、どうにもならない。
どうにもならないのだ......。
「天使を迎え入れよう」
学生結婚して就職して、やる気に満ちあふれて浮かれていた。
「名前を決めたんだ『天使』と書いて『あまし』と読ませるんだ。
これなら男でも女でも通用する」
俺の提案に妻の真由(まゆ)は「ちょっと気取りすぎてるわね」と、笑った。
そして無事に出産して名付けられた子は、一才になる前に急死した。
夏から秋にかけて気温差の激しい時期の出来事だった。
報せを受けて、気温に関係なく寒気がして足の先がしびれた。
あれから何度も泣いている。
泣いても泣いても涙は途切れ途切れに流れてくる。
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