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第二話
青空を映すバルコニーへと続く窓の向こうからは群衆の声と音楽が聞こえていた。
音楽隊が登場を後押しし、ララは呼吸を整えて気持ちを引き締めると足を踏み出した。
宮殿のバルコニーからは広場を一面に国民が詰めかけてこちらを見上げている。
「ララ王女!」
ひとりの声により歓声と歓喜の声に沸く広場の熱気に負けないようにララは脚に力を入れ。
「ララ様!」
手を振り国民の声に応えていく。
「王女様!」
王女は完璧でいなければならない。
国民の模範となる姿を示すためだ。
父があれだったので、反面教師をしている内に表情を崩さない王女になってしまった。
氷の王女様なんて異名まであるらしい。
「……ララ?」
唐突に声がかかって「なんでもありません」反射的にぴしゃりと返していた。
あああああ。
どうして冷たくしてしまったのだろう。
手を振りながら、繰り返し繰り返し反芻する。
バルコニーには私と隣に立つ婚約者のアルバート様だけ。
どうしよう。
嫌われたかもしれない。
婚約破棄をされたらどうしよう。
そもそも彼は私との結婚に納得しているのかしら。
アルバート・ロルフ。
隣国の王太子で私の婚約者らしい。
らしいというのはあまり面識がないからだ。
彼が今日ここにいるのも婚約者という立場から私に付き添うためのもので、彼にとっては両国の友好関係を示す義務的なものかもしれない。
そう思うと、ララは胸が締め付けられていた。
ちらりと国民に手を振る視界の隅に捉えたアルバート様は微笑みを讃えていて表情が読めない。
特には気にしていないのかもしれない。
「ララ」
声のした方に視線を向けると差し出していた彼の手を取りバルコニーを後にする。
「君が上の空だなんて、なにか悩むことでも?」
「べつに。なんでもないわ」
ありがとう。なんでもないの。
そう口にするはずだった言葉と声に乗った言葉は明らかにちがうものだった。
どうしてこの口はこうも言うことをきかないのかしら。
私が端的に終わらせるせいでアルバート様と会話らしい会話ができたことはない。
「そうか。では、また」
通例ならばふたりでお茶をするはずだけれど私たちの間ではそれも皆無だった。
いや、彼からすれば楽なのかもしれない。
たまたま聖女に選ばれたことで決まった結婚で、彼には彼の都合があるだろうし領民にふたりのお披露目をできたのだから今日の役割は終えていた。
この辺境の地までよく来たものだ。
国土の端に位置する我が領土までは十日程はかかるのだから訪れただけでも光栄なことだ。
両国の結びつきを強めることであり、感情など伴わない。
先月の聖女祭での通過儀礼である聖女の示しを受けたのがそもそものはじまりだった。
とんとん拍子に結婚が決まり賑わう領民を他所にララは戸惑っていた。
──遠き地より出し聖女現れ厄災を祓うであろう。
決まり文句であるその理をなぞることに疑問を感じていたものの、領地を出ての巡礼には興味を惹かれていた。
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