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「病院は嫌って確かに言ったかも。そうだったね。えーとその…点滴とか処置をありがとう。よく寝たからだいぶ良くなったわ」
とりあえず素直に礼を言った。そして、あらためて現状を確認する。
「で、なぜあなたはあそこにいたの?お母様の差し金?」
楓月は驚いたかのようにわずかに目を見開いたが、すぐにまたムスっとしたデフォルト顔になる。
「おふくろのことなんて知らん」
「じゃあなぜ私のところに来たの?何が目的なの?」
「別に。あそこにいたのは偶然だ。俺は俺がしたいことをするだけだ」
「でも私を探して病院に来てたんでしょ?」
患者でも見舞客でもない、あの場所にそぐわない動きをしてたから病院で目立っていたのだ。
「違う。用があってあの場所にいた」
僅かに目が泳いでいて、あきらかに嘘くさい。
(結局なんなの。何が目的なの)
梨々花は目の前の男に得体のしれない恐怖を感じた。
「介抱してくれてありがとう。もう大丈夫だと思うから、家に帰るね」
梨々花は身体を起こしてベッドから立ち上がった。力が入らず膝折れしそうになるが踏ん張る。
「このお礼はあらためてさせてもらうから。あ
、あと良ければ妊娠してることはお母様には言わないで欲しいな。それじゃあ、えーっと私の荷物はどこかなぁ」
すっと楓月の背後から忍び寄ってきたのは、先程のレディース総長。素早い動きで腕を掴まれたと思ったら、すとんと視界が下がって梨々花はいつの間にかまたベッドに腰掛けていた。
「あらあら、まだ絶対安静ですよ。先程お話ししましたよね?本当は入院していただきたいくらいなんですのよ」
にこやかな表情ながら何かの体術かと思われるほど、いとも容易く再びベッドに寝かされる。
そして真紅の唇を耳元に寄せて囁く。
「いいからここでしばらく世話んなりな。あいつの真意は知らねぇけど、利用してやるんだよ。腹ん中の子のためだろ」
はっとして両手でお腹を掻き抱く。
レディース総長は視線だけで楓月を指して、
「色仕掛けだ」
「は?どういうこと?」
「てめぇで考えな」
楓月は無表情のまま腕組みをして仁王立ちしている。
この人を利用するなんて、そんな上手く立ち回れるだろうか。
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