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「貴方は充分に戦いました。貴方を大切に思う方も、その勇敢な姿を誇りに思うことでしょう。貴方の功績は決して忘れられることはありません。どうか安心してお眠りください」  今日もまたひとり、兵士を天へと見送りました。  任務を預かってからふた月で、すでに片手で足りない人数を看取っています。  看取りは診療所の一番奥の小さな部屋、ベッドが一台と私が座る椅子があるだけの簡素な部屋で行われています。  この部屋が看取り部屋だと公言はされていません。しかし移された兵士が二度と姿を見せなくなることから、ここが天国に一番近い部屋だということが誰しもの暗黙の了解となっているようです。  そしていつの頃からか、その部屋に看護婦として唯一出入りする私を、負傷兵や看護婦たちは「大天使」と呼ぶようになりました。 「ミス・ポーレット。本日の任務遂行、お疲れ様でした」  旅立った兵士が下士官によりひっそりと外に運ばれてから、看取りの立会役を務めに訪れるセオドア・キャンベル中尉に労いの言葉をかけられました。 「中尉もお疲れ様でございました」  私は頭を下げ、いつもどおりすぐに立ち去ります。  私は三歳年下の、こちらのキャンベル中尉が苦手なので、必要以上に関わりたくありません。  彼は伯爵家の出身だと聞いていますが、診療所にあって「ここは社交場でしょうか」と首を傾げたくなるような笑顔と声色で看護婦たちに話しかける様子が私には軽薄に見えるのです。  おそらく彼は自身の容姿が優れていることを自覚しているのでしょう。  陽光のように煌めく黄金の髪に、碧眼が映える滑らかな白肌。それらは確かに看護婦らの視線を奪っています。  さしずめ荒野を照らす太陽というところでしょうか。  対照的に、陰鬱に見られがちな私にはその光が強すぎます。彼を見ると、自分の中の影が色濃く大きくなるような気持ちになるのです。 「では、お先に失礼いたします」 「ああ、少しお待ちくだたさい、大天使」  ですがどうしたのでしょう。ドアに体を向けると、初めて中尉に呼び止められました。  それも私にとっては好ましくない代名詞を使われて、私はドアの前で足を止めて彼に振り向きました。  すると彼は、私の唇になにかを押し当ててきたのです。 「こちらを貴女に」 「ふ、ん?」  これは……キャンディ? だけど少し違うような。 「これはね、グノヴァ、という帝国のお菓子だそうです」 「ん、んんっ」  ぎゅっと押し込まれて、口の中に入ってしまいました。  硬さがあるのにグニャリとした軟らかさもあるそれは、故郷ミジャールのジェリービンズに似ていますがさらに甘味が強く、同時に鼻からカルダモンのような香りが抜けていく清涼感もあります。  口から吐き出すことは下品なため、私はそれをほとんど噛まずに喉へ流し込みました。  そしてすぐに彼を睨みつけます。 「なにをなさるのですか。失礼ではありませんか!」 「おや、おいしくなかったですか? お疲れを癒す甘さだと思って差し上げたのですが」  いたずらっ子のようなあどけない表情を見せた中尉ですが、そんな表情も私には明るすぎます。  私はすぐに顔をそむけました。 「そういう問題ではありません。敵国の食べ物を、それもこの神聖な儀式の場で異性の口に放り込むなんてあり得ないでしょう。それと」  釘を刺しておきたくて、不本意ながら再度彼と正面で向き合いました。 「私のことを大天使、と二度と呼ばないでください。私は……私は大天使などではありません!」  言い終えたのに、胸のつかえが取れるどころか重苦しくなりました。ただ皮肉なことに、喉に残っている清涼感がそれを少しだけ軽くしてくれている気がします。  私は一度唾液をゴクンと飲み込んでから、彼に背を向けました。  すると、彼は私の肩にそっと手を置きました。 「ええ、私は本当のところ、貴女を大天使とは思っていません」 「え……?」
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