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「ミス・ポーレット、近頃また塞いでいるようですが、先日の若い兵士の件を気に病んでおられるのですか」  今日、珍しくキャンベル中尉が怪我を負って戦場から戻られました。  このたびは他にも負傷兵が多かったので、診療所はざわついています。  そのため囁くような小さな声は他の方に届く様子はありませんでしたが、医師の診察ののち私が彼の頬と手の甲の傷を手当てしていると、そう問いかけられました。  私は答えることができないまま、彼の美しい肌に付いた傷をガーゼで覆います。  あれは五日前のことでした。看取り部屋に移送された若い兵士が、半身を失って朦朧としてなお死を恐れ、生を求めて激しく咆哮しました。  圧倒された私は動けず、かける言葉も見出せませんでした。するとキャンベル中尉が私の震える手から薬を除き、兵士に投与したのです。  そして兵士の残された手から力が失くなるまで、中尉はその手を強く強く握りしめていました。  その後から私以上に塞いで見えるのは彼の方です。  明るい笑顔も声も、まったくなくなりました。  戦場で指揮を執る中尉の彼が前線に立つことはごくまれです。その彼が自らの手で自身の部下の命を()ったのですから、当然胸を傷めているでしょう。                 私はといえば、兵士の悲痛な叫びが忘れられず、また、その叫びを中尉に委ねてしまったことを後悔し自責していました。さらにこのような厳しい現実の中でも募っていく中尉への思いに、非常に困惑しています。  彼になんと返答できましょうか。 「終わりましたよ。しばらく手を」  手に包帯を巻き終えたので、濡らさないようにと伝えようとしたときでした。  その手に手を握られて驚くと、彼は私に話したいことがあると言います。 「例の任務の大切な話なのです。ミス・ポーレット、私ときてください」  そうして診療所の喧騒に紛れ、私の手を引いて早足で歩いて行きます。  連れ出されたのは外でした。 「空にあんなに煙が……」  出てすぐに、遠くの空が黒煙でけぶっているのがわかりました。 「……戦況が思わしくないのです」  彼もまた、私と同じく黒い空を見やりながらつぶやきました。そして続けます。 「診療所は安全地域ですが、帝国軍はやがてこの付近まで攻め入ってくるでしょう」 「それは……連合軍の」  敗北、という言葉は使えずそこで留めましたが中尉は頷きます。  その表情に輝きはなく、私は空を見たときと同じ不安な気持ちで彼を見つめました。  すると彼は、戦況とは結びつかない申し出をしてきました。 「ミス・ポーレット。私の懺悔を聞いていただけますか?」 「懺悔、ですか?」  唐突だとは思いましたが、彼の真剣な眼差しを受け、私は頷きました。
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