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 戦後六十年が過ぎようとしています。  帝国軍に破れた連合軍でしたが、我がミジャール国は賢王の判断により廃国を免れ、数年で復興しました。  私はというと、帰国後より看護総括長と共に看護学校を立ち上げました。  そして看護婦の育成に注力したのち現場に戻り、体の自由が利かなくなるまで看護の道を貫きました。  また、かねてより考えていた、戦争中に看取った多くの兵士のご家族の元を訪問し、勇姿を伝えることもできました。  私の任務について明かすことは叶いませんでしたが、思い残すことはありません。  悩み苦しんだ日も多かったですが、自身で選んだ人生を全うしたのですから。 「さあ、セオドア、次は貴方が約束を叶えてくれる番ですよ」  生涯独身だった私は病院の一室で、医師と看護婦に見守られながら天に旅立つ瞬間を待ちます。  二十八歳の頃は、人の命を奪った私では天へ行けないと覚悟していました。  けれど、セオドアは旅立つ間際にも、涙に濡れた私の頬に触れて約束をしてくれました。 「私はなにがなんでも天国へ上ります。そして、アイラが天寿を全うする際には、必ずや迎えに参りましょう」と。 「はぁ……」  私は重くなってきた瞼を閉じ、最後に大きく息を吐き出しました。  見える……彼方から光の橋が伸びてくるのが。  橋の先には天使がいます。陽光のように煌めく黄金髪に、美しい碧眼を持つ天使です。  ああ、貴方こそ天使になっていたのですね。  私は愛しい天使のまぶしい笑顔から目をそらさず、差し伸べられた大きな手に手を伸ばすのでした。 【了】
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