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持ち帰った鉢植えを窓際に置いて、リボンでラッピングされた箱を丁寧に開けていく。
緑だった玉石は、まるで銀の糸を織り込んだお手玉であるかのように、ラメのような輝きを放っていた。
天然物というから、苔でも生えているのかと思っていたが、表面は小さな穴が空いた軽石のようだった。
シャリシャリと、擦れて高い音のする石を、ベランダの鉢植えの中に数個置いてみた。
すると、葉や茎もまたラメがかかったかのように輝き始めたのである。
「これは ───」
陽の光を反射して、キラキラ輝く花壇と化した光景に、しらばく息を飲んで見とれていた。
我に返った彼は、先ほど買ってきた鉢を玉石の近くに加えると、リビングに戻ってコーヒーを淹れ始めた。
袋から豆を取り出し、コーヒーミルにザラザラと流し込むと、その音がやけに心を躍らせた。
自然と鼻歌交じりになり、カップソーサーとスプーンを取る手に、心地よい感触があった。
いつものクラシック音楽をかけても、体が自然に揺れ始め、コーヒーカップを取ると心が弾む。
たまらなく陽の光が恋しくなって、カーテンを全開にして陽だまりにあぐらをかいて座ってコーヒーを啜った。
仕事のために読んでいる、雑誌の電子版を開いて視線を落とすと、文字が頭にスイスイ入ってきた。
あっという間に読み終えて、英語のテキストを読み始めると、こちらも淀みなく進んで行く。
何もかもが、うまくいくので面白くなって出掛ける支度をしてドアを開けた。
玄関で靴を突っかけて足を入れると外に出て、鍵を取り出し閉めようとしたときである。
輝くような風景が、急に色褪せたような気がした。
そして気分が急に落ち着いてきたのである。
なぜ、外出しようとしたのかも分からなくなった。
廊下を見回すと、灰色の床とベージュの壁があるばかり。
ベランダを眺めていた方がマシだった。
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