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「本当かね、水野さん ───」  ガランとした会議室の片隅に、豊かな葉をつけ天井近くまで伸びた鉢植えの木が、少し身を低くして無理に窓の方へと枝を伸ばそうとしていた。  曇り空だった窓の外には、ポツリポツリと雨の雫が落ち始めた。 「はい、辞めようと思っています」  テーブルに視線を落として、暗い声で水野は言った。 「君がいなくなると、困ったことになるなあ」  白鳥部長は腕組みをして天井を仰いだ。 「そうですよ、あなたのお陰で私は自信をもって無実を証明できたのですよ」  先日相談を受けた下村の語気は強かった。 「決心は硬いのか。  せめて理由を聞かせてくれないか」  水野の視線の先には、先日「緑の玉石」の力で倍以上に成長した「青年の木 ユッカ」が光を受けて室内に優しい木漏れ日を落としていた。 「実は ───」  言い(よど)む水野の口元に、2人の視線は集まった。 「結婚します。  妻と一緒に事業を起こすために辞めるのです」  勢いをつけて席を立ち、窓際に歩いて行く水野の背中は晴れ間が差した陽射しを受けて、(まぶ)しかった。  白鳥も、下村も立ち上がると表情をパッと明るくした。 「なんだ、そう言ってくれればこんな心配を ───」 「いえ、社内には、まだまだたくさんの問題があります。  それを考えれば、門出を祝っていただく気分にはなれません」  きっぱりと言った水野の目には、輝きが満ちていた。 「それに昨日、プロポーズしたばかりなのです。  まだ実感がわかない、というのが本当のところです」 「これから、何をする気だね」  ゆっくりと向き直った水野の手には、例の石が星屑のような(きら)めきを(たた)えていた。 「花屋をやります」 「ほう、それはそれは、君らしいな」 「栽培から流通まで、一貫した事業にして、この『緑の玉石』のように人を育て、幸せにする植物を世の中に送り出すのです」  石の光が、一段と強くなって希望への道を示すかのように陽射しを集めて一筋の光を空へ向かって放つのだった。
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