〈4〉復讐の相棒

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〈4〉復讐の相棒

次の日、実和は就業時間中、社内の通路で室田に話しかけられた。 「ちょっと相談に乗ってほしいことがあるんだけど、仕事終わり、空いてる?」 実和は一瞬戸惑うも「いいよ」と返答した。 そして、退社後、駅前の喫茶店で待ち合わせた。さほど待つことなく室田が現れた。 「随分早いのね。室田さんは営業だから一時間は待つと思ってた」 「いや、これも営業の一つだよ」 「何それ?」 「いや、別に……」 「でも室田さんが私を誘うなんて、ほんと珍しい」 「そうかな。会社で同世代は俺と専務と小菅さんの三人しかいないんだから。といっても専務は立場が違うから、フランクに話せるのは小菅さんしかいないんだから別に誘ってもいいんじゃない?」 「悪いとは言ってないわ」 「じゃぁ、もっとゆっくり話が出来る場所に行こうか?」 「ここじゃダメなの」 「ここじゃ、濃厚なお話は出来ないなぁ」 「何、濃厚って」 「まぁいいから」 実和と室田は喫茶店を出た。そして、少し離れたところにあるカラオケ店に入った。二人は受付で言われた部屋に行った。そして、部屋に入るなり実和が言った。 「私、カラオケなんて歌えないよ」 「でも、ここの方が二人っきりになれる。人目を気にせず話をするにはカラオケボックスが一番なんだ」 「……」 「今日、誘ったのはちょっと確かめたいことがあってね」 実和の表情は少し強張った。室田はおもむろにカバンから専務に送られてきた封筒を出してテーブルに置いた。 「その封筒、専務宛に届いたんだ。中身、見ていいよ」 実和は封筒を手に取らなかった。中身は見なくてもわかっている。封筒の宛名を見ただけでわかっている。なぜならその封筒を出したのは実和本人なのだから。そして、これからどうなるのか大方想像がついていた。いや、会社の通路で室田に声をかけられた時から察しがついていた。室田は大貴の直属の部下。 その部下に声をかけられるということがどういうことか容易に想像がつく。実和は無言のまま下唇を軽く噛んだ。そんな実和の表情を室田は見逃さなかった。 「見ないんですか?」 実和は無言のまま。自分はこれから室田に吊るされる。とても言葉は出なかった。 室田は封筒を手に取り、中から写真を出してテーブルの上に置いた。何度も見た写真だ。 「実はその写真に写っている人に会ってきました。そしたら、その人、その写真は自分のロッカーに隠したまま忘れて退職したと言ってました。そして、今、そのロッカーを小菅さんが使っている。村上さんから聞きましたよ」そういって室田は笑った。 しかし、それとは対照的に実和の表情は強張ったまま。実和はふ~と深呼吸をして、出来るだけ気持ちを落ち着かせ開き直って室田に尋ねた。 「もう専務に言ったの?」実和はもう観念していた。 「いや」 「どうせ言うんでしょ」実和はキレイさっぱりした方が気が楽になると思い念を押した。 しかし、室田の返答は違っていた。 「言わないよ」 「どうして? それをネタに私を脅すんじゃないの?」 室田は笑った。 「まさか、むしろその逆ですよ」 「逆? 逆って何よ?」 「このことを利用して、もっと脅すんですよ」 「誰を?」 「専務」 「はぁ!?」実和は室田が何を言ってるのか、理解できなかった。室田はそんな実和をよそに続けた。 「あいつにとって、俺たちはただの駒。どうせいくらでも変わりがいる捨て駒だ。まぁ、実際そうなんだけどね。だからさ。これをネタにもっと脅して専務から大金を巻き上げるんだよ」室田は鋭い視線を実和に送った。 「恐喝するの?」 「憎いんだろ? 憎いから専務にその手紙を出したんだろ?」 図星だった。実和は何も言えなかった。 「大金を頂く。それぐらい、やっても許されると思うけどな」 「でも、どうやって?」 「先日、専務、婚約したろ。しかも取引先の社長の娘だ。会社にとっては願ってもない話だ。そこをつけば専務から大金を巻き上げることが出来る」 「無理よ!」 「出来るさ。必ず出来る。俺に考えがあるんだ。どう、俺と一緒にやらないか?」室田と実和は見つめ合った。実和は室田の視線から室田の本気をひしひしと感じとった。室田はテーブルの上に置いてあるマイクを手に取り、揺さぶってみせて、 「歌でいうならデュエットだ。一人では上手く歌えなくても二人なら上手く歌えるんじゃないか? 俺と小菅さん、きっといいデュエットになれると思うよ。どうお、ムカつく野郎に一発かまそうぜ」 実和の頭は混乱した。てっきりここで室田に吊るされると思っていたのに、それとは逆に専務を脅すと全く予想だにしないことを言われたのだから無理もない。しかし、その誘いは実和にとって考えるまでもなかった。もともと専務を困らせるために出した封筒。実和の腹は決まっていた。 「いいわ」 「よし。じゃぁ、今から俺と一緒に来てくれないか」 「え、今から!?」 「小菅さんを誘ったときから、計画はもう始まっているんだよ。こういうことはスピードが命。奴に考える余地を与えないためにもね」  室田は不敵に笑った。 二十時を回っている。 室田は黒いセダンのレンタカーを借り実和を乗せて自分のアパートの前に車を止めた。 「ちょっと待ってて」 「どうするの?」 「まぁ、いいから。もういろいろ準備はしてあるんだ。それ取ってくるから」室田は車から降りてアパートの階段を登り、二階の自分の部屋に行った。その姿を実和は助手席から見ていた。そして、十分ぐらい経つと、室田が何やらブルーシートに包まれた大きなモノ?を肩に背負ってアパートの階段をゆっくりと降りてきた。そして、そのまま車の後部のトランクを開けてブルーシートを入れた。その一部始終を実和はサイドミラー越しに何気なく見ていた。トランクを閉める音が聞こえた。室田は再び小走りにアパートの階段を登っていった。そして今度はすぐ降りてきた。 手にはスポーツバッグを持っている。そして、車の後部座席のドアを開けて、スポーツバッグを放り込んだ。そして、運転席のドアを開けて座った。実和はブルーシートに包まれた大きなモノが何気なく気になり尋ねた。 「何、あの青いの?」 「ああ、あれはこの計画の肝だよ」 「肝?」 「まぁ、いいから。後のお楽しみ」そう言って室田は車のキーを廻し、エンジンをかけた。 「さて、行こうか」 「どこへ行くの」 「いいとこ」室田は車を走らせ始めた。
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