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コンカフェみかえる
コンビニを左に曲がってビルの二階。
そこには現世界と天使世界とを繋げるドアがあるー。
ふわふわ広がるスカートに羽の生えた厚底の靴。
くるくると巻いた長い髪。
最近の天使はやけに可愛い姿をしているらしい。
ここはコンセプトカフェ「みかえる」
大天使様の名前をつけたふざけた田舎のコンセプトカフェである。
「お客さんがこない〜」
そう叫びながら腕を伸ばすのは店長のウリエル。水色に白のメッシュの入った長い髪をツインテールにしている。
オープンから1週間。来たお客さんは両手で数えられる程度であった。
「ラファ呼び込みしてきてよ」
「したらこの前注意されたじゃないですか。」
ただでさえ人口が少ないこの町だが最近できた店の呼び込み禁止条例のせいで客引きもできない。
「うちにあとどれだけ借金残ってると思ってる?」
「知りませんよ。」
ファンシーな世界観でファンシーな格好をしていると言うのに、話す内容が現実的すぎて嫌になる。
こんなんじゃない。わたしが憧れたのはこんなんじゃないのに。憎たらしく思ってウリエルを睨むも現状の解決にはなにひとつ向かわない。
「おつかれさまで〜す」
ドアが開いたと思ったらお客様じゃなく、出勤しにきたキャストのカムエルだった。
「あ、やっぱゼロですね。」
店内を見回して分かっていたかのように言う。
ここ数日同じ光景なので想像ついていたのだろう。
「⋯やっぱり私、東京に行く。」
「え?」
突然なんか言い出したぞという顔でウリエルが私を見る。言い出してみるとほんとうにやって行ける気がした。
「わたしはこんなところじゃ終わらない。都会でキラキラした人生を送るんだ!」
楽しいことしているのに楽しくない。現状を変えたくてしょうがなくてでもどうすればいいのか分からない。どこにも行けないような苦しさがあった。なんだか思い立つともう狭くてここには居られない気がした。
見透かしたような目でウリエルが私を見てくる。
夢見がちで思いついたらすぐ行動してしまう私のことをこの人はよく知っていた。
どうせ上手くいかないよ。いつも思いつきで動くから失敗するんだよ。そんなことを言いたそうだ。
分かっている。それでも想像し出すと止まらなかった。無鉄砲で無計画で乙女思考で、⋯こんな私の性格に私が1番疲れてた。
それでも今から変えるなんてそっちのほうこそ難しいのだ。
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