ラファエルとウリエル

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ラファエルとウリエル

田舎に住む人に聞いてみて欲しい。「この町のこと好きですか」と。 全国全体で見ても高齢化が進むこの町は道行く人の多くが老人。都会から進出してきたオシャレな飲食店は最初は繁盛するもののすぐに人が来なくなり、閉店。また新しい店が入るという流れを繰り返している。 生まれ育ったこの場所に愛着が無いわけじゃないけれど、⋯やっぱり私には退屈だ。 狭いこの場所は好きじゃない。 「それで、出ていくことにしたんだ。へぇ、いいんじゃない?もうここを見限ったってことだもんね。」 「ウリエル⋯いや、店長。」 怒っている。突拍子をないことを私が言い出すのはいつものことだけど、今回は本格的に行動しようとしているからである。 「いやでも戻ってこようって思ってます。ほら東京にはあの修行的な感じで行こうかなって。」 そう言ってあははと笑うものの店長の表情は硬いままだった。 私と店長の関係は最近出来たものでは無い。はじめて出会ったのは中学の時だった。 しかも最悪な形で。 2個上の店長こと齋藤かおりは私が中学の時好きになった先輩の彼女だった。好きな先輩のまわりをうろちょろしていた私を当然かおり先輩も認識していて、お互い話したこともないけれど嫌いな存在だった。先輩が卒業して惚れっぽい私はまた新しい好きな人を見つけたけど、その好きな人も前はかおり先輩が好きだったらしいと聞いた。 次にかおり先輩と出会ったのは高校である。 美人なかおり先輩は目立っていて、なんでこの人がいるんだろう、せっかく忘れかけることが出来ていたのにと思った。先輩はまた私がかっこいいなと思った人を彼氏にしていてたまらなく嫉妬していた。 思えばずっとかおり先輩のあとを追いかけるような人生だった。行き先々に先輩が既に居て、しかも私よりずっと素敵な人生を送っている。 好む人やものが似ていて、同じ委員会になったり、同じ場所が好きだったりで避けようとしているのに接点が絶えず見た目だってなんか似てるねと友達に言われる始末だった。 そんな先輩と最近再会したのは飲食店のバイト先である。 パートのおばさんに「あなたと同じ高校出身の子がいるのよ」 と言われた時に嫌な予感がしたのだ。 予感というより直感? 現にバイト先の制服を着る先輩を見た瞬間、やっぱりと思ったのだから。 惚れっぽくて人への興味も熱しやすく冷めやすい。出会った人とはどんな人でも深く知りたくなる私なのに、縁があると思うのは良くも悪くもこの人だけ。 先輩が私を見た瞬間、驚きの表情ではなく、楽しそうなことが始まる、といういたずらな笑顔になった。 「また一緒だね。」 私たちの初めての会話がそれだった。
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