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また君の話
そんなしんどい日々が続いていたけれど可愛いって褒めてくれる人もいた。それは店の店長の知り合いの中瀬さんという人である。よく店に来て皆と話す。キャストからも人気のあるかっこいい男の人だった。
「そっかラファちゃん遠いとこから来たんだ。だったら大変でしょ?きついことあったら俺に相談してね。」
そんなふうに言ってくれるし仕事もできるし、持ち物も高価なものばかり。惚れっぽい私でもこの人が王子様だったとしたらさすがに神様に釣り合ってないって直談判しにいくなと思った。
今日ご飯奢ってあげるよ。中瀬さんにそう言われて高級そうなレストランに連れてきてもらった。
中瀬さんの話す話は、別世界のようでおとぎ話を聞くような気持ちになる。私に魔法をかけてくれる魔法使いにも見えた。まるでここだけ魔法がかかっているみたいな感覚だった。
でも私はかよわいお姫様じゃない、しぶとくてずぶといただの田舎娘だ。魔法にはかかりきれない。
「ラファちゃんってさ、かおりの店から来たらしいね。」
そう言った瞬間完全に魔法が溶けた。
またかよ。
「かおりね、前こっちでコンカフェやってたんだよ。」
「そうなんですか。」
かおり先輩本人からそんな話は聞いたことは無い。聞こうと思わなかったし先輩も進んで話したいと思わなかったのかもしれない。
「自分の店開くのが夢だって言っててさ、いまは雇われ店長みたいなもんだけど、コンセプトどんなのにするかとかは、かおりの案なんだよ。」
「へぇ。」
そういえば、なんで天使なのか知らないな私。
「俺は実はかおりと付き合ってたことあるんだよね。」
「そうなんですか。」
そんな気はしていましたよ。だってかおり先輩私と好みの男性100パーセント被りますもんね。なれたパターンに驚きもしない。
「かおりってさ、人一倍寂しがり屋なんだよな。」思い出すように頬杖をつく。俺だけが知ってるかおりの話、というような表情になぜか少しイラッとした。
「そうですかね。」
「そうなんだよ。1回、かおりがめっちゃ酔ってた時に聞いた話なんだけどさ、あいつは家庭環境複雑だったみたいでさ、お父さんもお母さんも不倫してたらしいんだよ。」
「え?」
「だから恋愛するのは好きだけど相手のこと信じられないんだって言ってた。いつか絶対私から離れていくからって。」
「⋯」
「だけど、人の事信じるのは苦手だけどそれでも信じられる女の子は1人いるんだって。」
そう言って中瀬さんが私を見て笑う。
その様子からしてその女の子は私のことなんだろう。
「離れても絶対に出会える、縁がある女の子。高校の時ほんとうにしんどい時、その子が励ましてくれたらしいよ。」
知ってる。それは私だ。かおり先輩と初めての会話はバイト先で再会したときだけど、間接的にコミュニケーションをとったことは高校の時に1度だけあったのだ。
かおり先輩は彼氏のことで落ち込んで教室で1人で泣いていた。委員会で使った教室だっからまだ居たんだって思って遠くから様子を見ていた。
噂を聞くと彼氏が浮気していたようだった。それを知った私はいても立っても居られなくて彼氏さんに怒りにいったのだ。
その時自分が言いたくても言えない感情を誰かが見せることで楽になることってあると思うから。
どうやらその時落ち込んでいたのは彼氏のことだけじゃなかったらしくて、家族のこととか友達からの僻みとか一気に来て孤独を感じていたらしい。もともと自立した性格だから周りの人は放っておいてしまうのかもしれない。
ほんとうはひとりが怖い、人一倍怖がりな女の子だったのに。
「ひとりぼっちになってしまった時にその子はいつも現れる。まるで神様からのプレゼントみたいって。」
そんなこと思ってたんだ。
「まるで私のために現れる天使みたいって。」
そうか、それでかおり先輩は酔うと私のことを天使って呼ぶんだ。
「かおりは自分の居場所が欲しいって言ってたんだよ。自分がずっと居ていいみたいな場所が欲しいんだって。多分そこには君もいて欲しいってことだ。」
食事が終わり中瀬さんとの別れ際そんなことを言われた。
中瀬さんは最初からそれが言いたくて私に優しくしてくれていたんだろうなと思った。
結局あの人かよ、と思う。
私の人生は本当にあの人中心に進んでいる。
そろそろ潮時だ。
わたしは私を待ってくれている私を天使と呼ぶあの人のところに帰らなくちゃ。
帰ったら全部聞かなくちゃいけないな。
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