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俺の進路先が農業高校になったのは、両親の強い希望だった。
理由は自由で自然な生活を送ってほしいという思いからだそうだ。
授業は思った以上にそつなくこなせているが、実際のところ授業はつまらないし、人間関係も誰かと楽しく話して過ごしているわけではない。
けど唯一よかったと思ったのが、この学校には中学一年の時から親友でいる黒川大吾がいたこと。
「また細かい部品集めたな」
「なかなか売ってないから探すの苦労した」
外の寒さが厳しくなってきたが、教室ではほどよく暖房がかかっている。
たった一人の俺の親友は機械に詳しい。
だからロボット研究部なんか勝手に作って、空いた教室で一人で研究を重ねてる。(本当は機械全般を研究する機械研究部を作りたい黒川だったが、それだと部活として却下されてしまい、農業に生かせるロボットを作るロボット研究部にして農業のロボットを開発してくれるなら自由に研究していいと担任に言われている)
「朝霧、そこのねじ取って」
「ああ、はい」
黒川が大好きな機械に関する高校を選ばずに、何でもいいからと俺と同じ高校にやってきたのは、いまだに謎である。
黒川とは高校になってクラスが離れてしまって、黒川は機械を研究するためにバイトに勤しんですぐに帰ってしまう。
高校に入学してこの教室や休日に会っていたけど、ここ一週間は顔を合わせていなかった。
「お前さ、性格変わったよな」
農業に使える小型の機械を組み立てながら、黒川は口を開く。
「は?」
「ずっと思ってたけどなんか中学の時と違う。話し方乱雑になったし、態度も違う。なんか堂々としてる感じ」
「なに、一週間ぶりに会ったから俺のこと忘れたの?」
「忘れたのはお前なんじゃないか?」
「俺……?」
「そう、ずっと忘れてるんじゃない?」
俺は首をひねり、黒川は言葉を重ねる。
「さかのぼるならお前は一年前から違う。受験生だったころはどこか心をなくしてて、まあ受験のプレッシャーみたいなので落ち込んでるのかなと思ってたけど、春休み終えて高校に入ったら今度は別人みたいに明るくなったというか」
「え?」
「……ま、別にいいけどね」
唖然としてしまうが、黒川は淡々と作業を進める。
集中していると機械のこと以外どうでもよくなるのは、本当に出会った当初から変わらない。
でも俺は知っている。
そっけない黒川は、実は冷静で人思いだということ。
……今は機械に夢中だから、俺の話を右から左に流してだめだけど。
「オッケーできた! はさみはさみ……」
「はい」
俺は制服のズボンのポケットから小さなポーチを取り出す。
そこには折り畳み式のはさみが入っていた。
「なんではさみ持ってんの?」
「黒川は機械の組み立てのことに集中しすぎてよく忘れるから」
「……へえ、気持ち悪い。とうとうポケットに持ち出すまでになって」
「お前のためにいつも持ってあげてるんですけど? この部屋に刃物であるはさみ置いておくの禁止だから」
冷めたトーンで言い切ると、黒川は機械から目を離し真顔のままだが、ようやく俺を見た。
「ありがとう、朝霧」
「おう」
俺は黒川にはさみを渡した。
「そういやさ、猫元気?」
「ああ、元気だよ。成猫だからかよく食べるし」
ちょうど一週間前の帰り道、俺は車にひかれていた黒猫を助けて飼うことになった。名前はソル。年齢は一歳ぐらい。猫はもとから赤い首輪をつけていて、ケガも治ったことだし、明日にでもポスターなんかで飼い主を探すところだ。
黒猫のソルは目玉の周りが黄色でひげと手と目玉の下のほくろみたいな模様が白色なのが特徴で、鳴き声もおしとやかでなんともかわいい。今日ちょうど交通事故のケガが完治したところで、部屋の中をくるりと散歩して、俺の家にある赤リンゴのクッションが気に入り、そこにいつも丸まって場所を独占している。
「今度農家に役立つ猫型ロボットを作るから、その時にお前の猫貸してくれ」
「なんか貸しづらい。けどまあソルに何もしないならいいけど」
「見てるだけだよ、じっと見ればどう作ればいいか目途がたつし」
「……まあいいけど」
見つめすぎてソルが逆なでしないのなら。という補足は心の中でしておいた。
「……あいつも猫好きなんだけどなあ」
「ああ、黒川の幼馴染の女の子だっけ?」
「うん」
「ずっと言ってるけど、気になるなら会いに行けばいいじゃん」
「気になるとかじゃない。小学校卒業して以来会ってないし、家も引っ越したから知らない。ただ……琉生と似合う子だなと思ってるだけ」
「俺は会ったことないのに?」
「向こうもないよ。でも僕は正しいこと言ってると思う」
「ふーん……」
ふと窓の外を見ると、夕日が見えた。
「黒川、そろそろ帰らない?」
「まずい、今日バイト忘れてたわ……」
「え」
「悪い、遅刻しそう。明日から冬休みだから会えないし、また連絡して来いよ」
「え、は、はあ!?」
ぱぱっと必要なものだけ持ち去り、黒川はダッシュで教室を出ていった。
「俺はお前を待ってたのに……」
ため息をつき、これでも相手に悪気がないことは知っているので、仕方なく黒川が置き去りにしたはさみ入りのポーチだけポケットにしまって、俺は教室を出た。
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