サンタ・クローズ

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「サンタさんがどうして赤と白の服を着ているか知ってる?」 僕はベッドの中で身体を小さく丸める君に向かって、そう尋ねた。 君は、わからないのか首を横に振った。 「わからない?はい。時間切れ。残念。だから答えも教えてあげない」 僕はそう言って身体を丸めたままの君の身体を布団の上から撫でた。 答えを教えて貰えない君はきっと、僕を布団の中で意地悪な目で睨んでいるに違いない。毎年の事だ。そうされても構わなかった。 「君には一生わからないよ」 むしろ君の存在をも否定するような、突き放すような言葉を僕から言われなかった事に感謝して欲しいくらいさ…… 「またオネショしたのか!テメー幾つだよ?来年から中坊になんだぞ?なのに毎晩オネショすんのか?おい!こっち来い!」 ママは僕の着ていたパジャマを剥ぎ取った。僕を裸にして、オネショをしたパンツとパジャマのズボンを僕の顔に押し付けた。 無理矢理に口を開かされパンツを口の中に押し込まれた。 これには意味があった。これからママが僕に対して行う事で、僕の口から出てしまう声が外に漏れないようにする為だ。直ぐだ。逆らわなければ直ぐに終わる。僕は先ず壁に顔を向け足を肩幅くらいに広げ両手を上へとあげた。 これで、前半の準備は整った。あとはママが布団叩きで僕の背中やお尻、太ももなどを殴る。 僕が頭の中で数が数えられるようになってからは 平均、20から30回くらいママが僕を殴るのが前半だ。後半も似たような物だけど、前半とは少しばかり違いがある。 ママはオネショをする、してしまう所、つまり股間にある僕のあれに沢山の洗濯バサミを挟む。 オシッコが出る先にも皮をつまみ洗濯バサミを挟む。 それが終わるとママはあらゆる角度からスマホで写真を取り、そして動画撮影の為に三脚を用意する。撮影が始まるとママは嬉々として僕を殴った。布団叩きを使い、服を着たら隠れるパジャマ箇所ばかり集中して殴り、疲れたら殴るのを止め力任せに洗濯バサミを引っぱり取る。お陰で僕のあそこは擦り傷や瘡蓋だらけだ。まぁ身体も似たようなものだった。 今朝もやっと終わった。終わったからと言って勝手は許されない。ママが良いぞというまで僕は裸のままで両手足を広げて待つ。 「三太!明日は絶対に漏らすんじゃねーぞ!」 ママは言って僕の部屋から出て行った。 「ションベン垂れの布団、外になんか干したら許さないからね!」 ママはオネショ布団が近所の目に晒される事を凄く嫌がっているからだ。僕もその点はママと同意見だった。だから部屋の中に置いたまま扇風機の風を布団にあてるしか漏らした箇所を乾かす方法を僕は知らなかった。 それは12月の寒い季節でも同じだった。 そういう意味も含め僕は12月が大嫌いだった。 何故なら名前が三太だから、毎年のようにクラスメイトからプレゼントをたかられるからだ。 それは12月に入ると同時に行われる。それは学校には非公式であり、僕がいるクラスでの恒例行事のようなものだった。 「三太、俺、プレステ5な」 「私、ディオールの香水が欲しい」 こんな感じで毎日、せがまれクリスマス当日がやって来る。けれど冬休み直前のせいか、終業式後には必ずとある事がクラスの中で起きる。 それは僕、つまり三太からプレゼントが貰えなかった怒りを三太へぶつける、学校には非公式の暴力が行われるのだ。1年に1度の、クラスメイトが暴力装置と化して僕を殴るのと、毎朝、ママに殴られる事のどちらが嫌かと言えば、やっぱり全員からの非公式なクリスマスプレゼントを貰う方が嫌だった。 明後日にはその12月25日がやって来る。嫌味のように皆んなが 「今年の三太さんはプレゼントくれるかな」 とか 「三太さんは子供の願いを叶えてくれるんだよ? プレゼントくれないわけないわ」 と教室から出て行く僕に向かって言った。 今回殴られるのを我慢すれば来年からは中学生だ。だから2度とこんな目にはあわないはずだ。 そう思っていた。でもとある生徒が校門の所で僕を捕まえると、 「今年、俺にクリスマスプレゼント寄越さなかったら、中学に入っても同じ目にあわせてやるからな。忘れんなよな」 その生徒が何を欲しがっていたのか僕は憶えていなかった。それに1人にだってプレゼントを買ってあげられるお金もないし、それが他のクラスメイトにバレでもしたら、更に酷い目にあわされるだろう。 僕は三太という名前をつけたママを、いや何年も家に帰らないパパを憎んだ。 「クリスマスが近いってのに何しょげた顔してんだ?」 学校の帰り道、1人歩いていた僕にサンタが話しかけて来た。 クリスマスが近いせいか、あちこちのお店の前ではサンタのコスプレをした店員さん達が、道ゆく人に呼びかけていた。その中の1人が僕をみてそんな風に言って来たのだった。 「別に……」 「そっか。ならいいや」 「いいの?」 「いいさ。お前は所詮他人だからな」 「そうだよね……」 「ま、けどよ。しょげた顔した子供を見過ごすのも良い気分しないからな。だから特別にお前にだけ、サンタの秘密を教えやるよ」 「何?サンタの秘密って」 「なら、その前に問題。サンタはどうして赤白の服を着てるのでしょうか?」 僕はしばらく考えてわからないと答えた。 「雪ってさ。白いだろ?」 「うん」 「その白に1番合うのが赤だからさ」 「意味わかんないよ」 「そうだな。うん。わりぃな。俺、話し下手だからよ。まぁ、あれだ。簡単に言えばだな。サンタってのは人殺しなんだ。人を殺すのが大好きな頭がおかしい野朗だったんだ。世の中にはそういう奴はいるんだ。サンタもその1人でさ。で、たまたま大雪が降る中、夜遅い時間に今夜の獲物を探していたサンタの前に偶然、プレゼント箱を抱えた主婦が通りかかったんだ。主婦が、買って来たプレゼントを開ける子供の喜ぶ姿をみたいと思っていたその主婦をサンタは迷わず刺し殺した。何度も何度も刺した。で、刺された主婦は地面に倒れてさ。その身体から流れる出る血が雪を真っ赤に染めたんだ。サンタはそれを見て、こんな美しいものは今までみた事がないと思った。 そのような美しいものをサンタに見せてくれた主婦が買ったプレゼント。サンタはそれも気になった。包装紙を破り捨て箱を開けた。中には大きなナイフ、お前にはまだわからないかもだけど、今でいうサバイバルナイフが入っていた。なんせサンタがいた土地には鹿や猪などの狩猟を仕事にしている者が数多くいたから、ナイフは必需品のような物だったんだ。だから、サンタはそのサバイバルナイフを手に取り、これを使えない子供を不憫に思った。同時にプレゼントをあげると言えば、より多くの人を殺せるなと考えた。良いアイディアだと思った。そのアイディアを思いついたのが12月24日でプレゼントを餌にした殺人を犯したのが12月25日だったんだ。だから、クリスマスプレゼントを貰うってのは、殺されるって意味なんだよ。わかるか?クリスマスって楽しいもんじゃなくて、恐れるもんなんだ」 「そうなんだ……」 「嘘嘘だって!辛気臭い顔すんなよ。怖がらせるつもりはなかったんだけどなぁ。俺っていつもこうなんだよ。トンチンカンな事言っちゃってさ。悪かったな。ごめんよ」 サンタのコスプレをしま店員さんはそう言ってから、休憩じゃんと付け足しお店の中へと戻って行った。 僕は家に帰ると小さな頃からお小遣いやママやパパの財布から抜いて溜め込んでいたお金を入れてある貯金を叩き割るとそれを持ってナイフを買いに出かけた。 本当に真っ白な雪に血がつくと綺麗なのか、知りたかった。僕とサンタは同じ名前だ。つまりそれって僕がサンタの生まれ変わりだって事じゃないのか?きっとそうに違いない。だって三太なんて名前がついている人なんて僕以外知らない。 ナイフを買った後、プレゼントを買わなきゃいけないと思った。けどお金が足りなかった。だから、仕方ない。クリスマスプレゼントを持って来たと言えば、絶対取りに来る。そこで僕はこのナイフで…… 僕は家路へ向かいながらクリスマスには雪が降って欲しいと願った。降る確信もあった。ナイフを持っているという事だけで、怖いものはいなくなった。 この瞬間、長年閉ざされていた三太の心に、急速な変化が起こり始めた。ずっと声に出さずに思っていた事が、種となり根をだし、その根が広がり芽をだし幹となった。 三太は自分の心のドアの隙間からこちら側を覗き見する自身の姿に三太は嬉しく思った。サンタもきっと、雪を染める血を見た時、きっと今の僕と同じような気持ちだったのかも知れない。 それは発見であり喜びであり、旅立ちであった。三太は今、自らの手で硬く閉ざし続けていた心の扉を力の限り押し開け始めていた。 その手にはナイフが握られ、先から滴る血が、長年積もった憎しみという深雪の中へと染み込んでいく。 僕は今、三太という名に産まれて初めて誇りを持てた気がした。 了
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