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運命の番なんて、僕には1番縁遠いものだと思ってた。
第二性診断でオメガと診断されたけれど、僕は見た目も性格も控えめで、どこからどう見てもオメガになんて見えない普通の男子中学生だった。それでも高1の時に初めて訪れた発情期以降、3ヶ月に1度しっかり発情期は訪れ、オメガであることは間違いないようだ。だけど見た目が地味なせいか誰も僕がオメガだとは気づかず、普通の公立高校に通っていても僕はオメガだとは気づかれなかった。発情期休みはきっちり取っていたけど、みんな勝手に僕は病弱だと思っていたらしい。まあ、地方の街なんてほとんどがベータで、まさかこんな近くにオメガがいるとは思ってなかったんだろね。でもそれくらい、僕は全くオメガっぽくないし、たとえアルファが近くにいてオメガだと分かっても、全く興味を示さないほどオメガ性が弱かったんだ。
そんな僕は他の同級生同様大学進学を機に上京し、そのまま東京で就職した。本当はそのまま地元にいたかったけど、ぽくなくてもオメガの僕には、地元での就職先がなかったんだ。それで仕方なく大学から東京に来て、オメガ枠の会社に就職した。
それから7年。
入社当初はオメガ枠入社ということで、他の社員も僕がオメガだと知っていたけれど、年数が経つにつれてそれも忘れられ、新たに入ってきた子たちに至っては初めから気づかれず、僕は普通のベータの平社員として扱われている。
アルファの社員もいるけれど、誰も僕がオメガだとは言わない。デリケートな問題で、他人の第二性を言いふらすのはタブーとされているのもあるけど、僕には全く興味が無いのだろう。だからオメガだからとアルファから言い寄られることも全くなかった。
オメガに生まれながら、全くオメガらしく扱われないこの生活は、もしかしたら寂しいことなのかもしれない。オメガの恩恵はなにひとつ受けられないのに、発情という煩わしいことはしっかりとあるのだから。でも僕は、それでいいと思ってた。このまま目立たず、ひっそりと生きていけたらそれで良かった。発情期はめんどくさいけど、僕は抑制剤が良く効いたからいつもそんなに重くはならなかったし、普段も抑制剤のおかげでフェロモンは少なくて済んでいる。だからベータには気づかれず、アルファからも注目はされない。だからこの静かで穏やかな生活のまま、僕は一人で生きて行こうと思ってたんだ。
なのに・・・。
なぜ僕だったのだろう。
この世には少ないとはいえ、オメガは他にもいるのに。なぜこんな、ぱっとしないオメガの出来損ないのような僕が、ほとんど出会うことがないという、『運命の番』に出会ってしまったのか。
だけど、気づいた時には全てが終わっていた。
その日は休日出勤で、午前中だけ会社に行っていたんだ。そしてその帰り道、桜で有名な公園の脇の道を通りかかったその時、僕は突然の発情期に襲われた。
なぜ?
どうして?
発情期は先月終わったばかりなのに。
今まで発情周期は大きく狂ったことはなく、せいぜい1日程度だった。なのに2ヶ月も早く発情期が来るなんて全く思っていなかった僕は、その時パニックになった。それでもオメガであるがために、こういう時はどこに逃げ込めばいいのかの目星はつけている。
ここから一番近いのは公園のトイレ。
だけど桜が満開のこの日は人がごった返していてアルファに遭遇してしまう。だったら次に近いのは・・・。
僕はパニックになりながらも緊急抑制剤を太ももに打ち、次に近い避難場所を目指した。幸い意識が遠のくほどの発情ではなく、周りの人もベータが多かったようだ。それでもこちらを振り向く人に、僕は恐怖を覚えながらひたすらそこをめざしていた。
あと少し・・・。
目当ての建物が見えた。
そこは通りを1本入ったところにあるラブホテル。そこの無人の受付で、適当に空室を選んだその時。身体中の毛が逆立つような感覚に襲われた。
それは本当に、なんと言っていいのか分からないけど、全ての意識がそれに持っていかれるような、不思議な感覚。そして次の瞬間香る甘い香りに、僕の身体中の毛が逆立った。そして身体の熱が一気に上がり、僕の意識はそこで途絶えてしまう。
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