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その度に僕の所に来て話していくのは、僕に癒されるため?
・・・なんて、自分で思って恥ずかしくなる。
まさかね。
「そんなわけで、綾瀬さんはオレたちアルファの癒しであり、アイドルなんです。だから2年前に綾瀬さんが番になった時はみんなショックで、だけど綾瀬さんに知られないように必死に隠してたんですから」
アイドルってそんな・・・本当に大袈裟なんだから。言われてこっちが恥ずかしくなる。
「だけど綾瀬さんからはなんの報告もないし、その後も結婚したという話は聞かないし、綾瀬さん自体いつもと変わらなくて、実はみんな心配してたんですよ。もしかしたらフェロモンが分からないのは、何か別の病気なんじゃないかって。それで部長に訊きに行ったら、番届は出されているけど結婚届は出てないって言って、部長も心配してましたよ」
確かにあの時はもう取締役になっていたのに、部長はよくここの様子を見にきていた。それは僕を心配しての事だったの?
「でも綾瀬さんに変わった様子はないし、知らないことになってるから事情も聞けなくて。だから様子を見るしかできなかったんですけど、ほんとに変わらないから、大丈夫なのかな?と思ったらここ最近元気がなくて、いつもはしない残業もしだしたからみんな心配してるんですよ」
そう言って心配そうに目を細める。
みんなにそんな心配かけてたなんて知らなかった。僕がオメガであることすら知らないと思っていたら、知ってて知らないふりをしてくれていたんだ。
「・・・上手くいってないんですか?」
もう一度問う奥田くんに、僕は小さく息を吐いた。誰も知らないから、誰にも言えないと思ってた。だけど本当は知っていて心配してくれている。そんな優しさに、僕は口を開いた。
「上手くいくも何も、初めから上手くはいってないし、これからもいかないんだ」
僕の言葉に、奥田くんの目が僅かに開く。
「確かに2年前に僕は番になったよ。だけどこの契約は、僕も相手も同意していない契約だったんだ」
誰にも言えないと思っていた。
言ってはいけないと思っていた。
だって、僕がオメガだと知られていなかったから。
でも知っていた。
だから話してもいい。
番になったことを知っていたからって、それを話していいかは分からない。だけど奥田くんの優しさに、僕は話を聞いてもらいたくなった。
「事故だったんだ」
その言葉に、奥田くんの目はさらに見開かれる。
「僕はオメガ性も弱いし抑制剤もよく効く体質だから、上手く発情をコントロールしてると思ってた。だけど違ったんだ。2年前僕は、予定外の発情を起こしてアルファを巻き込んでしまった」
僕の言葉に、奥田くんは何かを言おうと口を開くけど、そのまま何も言わずに口を閉じた。言うことなんてないよね。アルファからしたらとんだ災難だもの。
「仕方がなかったんだ。僕もその人も、一瞬で発情の波に飲まれてしまって・・・。だけどその人はとても責任感の強い人でね。責任を取ってくれたんだ」
運命の番だったことを除いて、僕は2年前に起こったことを話した。そしてその関係は今も続いていることを。
「本当はね、責任なんて取ってもらわなくて良かったんだ。確かに番契約は生涯1度だけしかできないけれど、別に僕には特別な人はいなかったし、この先もそんな予定はなかったから。だけど向こうが、どうしてもそれじゃダメだと言い張ってね。僕もそんなに強く言えるような性格でもなくて、結局押し切られちゃったんだ」
そう言った僕に奥田くんはまた何かを言おうと口を開くも、今度は僕が言わせまいとさらに話し続ける。
「でもね。こんな関係をずっと続けるはおかしいだろ?いくら責任を取るって言っても、お互いの間には全く気持ちが通い合っていないのだから。だから僕は、いつまでもこの関係を続けるつもりはなかったんだ。向こうの事情が変わったら、すぐにでも解消しようと思ってたんだ」
いなくなった恋人が見つかったら、僕はすぐにでもやめようと思ってたんだ。
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