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あぁ、困った
「あぁ、もう、どうしよう。」
文美は泣き止まない生後2か月の孝也を抱きながら自分が泣きだしていた。
おっぱいもあげた。おむつも替えた。気分を変えようと着替えさせた。
何をしても泣き止んでくれない。
「あぁ、もう、何で泣くの?泣きたいのはこっちなのに。」
孝也は文美を見て、ますます泣き声を大きくした。
自然界の中では極めて未熟な状態で産まれる人間の赤ん坊は言葉も話せないし、自分で自由に動くこともできない。
前世が馬だった孝也はイライラしてしまう。
前世はよかった。
生まれてすぐに歩けたし、お母さんのおっぱいだって好きな時に飲めた。
「僕は、暑いんだよぉ。お母さん着せ過ぎだよぉ。」
孝也はまだ空の上にいたときに、人間の赤ん坊に生まれ変わると決まった時に、教わったことを思い出した。
人間の赤ん坊は長い間お腹の中にいるし、お産は大変で外に出るまでに色々教わってきていたことを忘れてしまっていた。
「汗をかけば気付くかも。汗のスイッチどこだっけ?」
孝也はようやく汗のスイッチの位置を思い出してまだ短くてうまく動かせない手をようやく口元に持ってきてチュッパチュッパと吸い始めた。
親指に色々なスイッチがあるのを思い出したのだ。
「あら、指しゃぶり。まだおなかが空いているのかしら?」
文美はおっぱいを出して、孝也に咥えさせようとした。
「ウンギャ~~」
「え?違うの?もう~~~~。」
孝也は泣いたこともあって、益々暑くなってきた。
抱いている孝也の服がじっとりと湿っぽいことにようやく文美は気付いた。
「あれ?暑かった?着せ過ぎ?
あぁ、そう言えば母親学級で赤ちゃんは私達より暑がりだって言ってたよ。
忘れちゃってたなァ。」
文美はようやく少し薄手の服に孝也を着替えさせてくれた。
孝也はそれで満足したので泣き止んだ。
「はぁ~~、子育てって大変ねぇ。母親学級のしおりを見直さなきゃね。」
孝也はようやく涼しく慣れて、快適になったので、眠くなった。
「はぁ~、親を育てるのって大変だなぁ。お空で教わった通りだ。子供が沢山我慢しないと親は育たないって言ってたもんな。
することもないし寝よう。」
孝也が眠ってくれたので、文美は母親学級のしおりを見直して、もう一度産む前に色々教わっていたことを確認し始めた。
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『子育ては自分を育てる事です。』
『子供が泣いた時には次の事を確認しましょう。』
『子供は泣くものです。泣いたからと言って動揺すると子供に気持ちが移り、益々泣き止まないことがあります。』
etc・・・・・
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「なるほど。泣いても慌てないでいよう・・・なんて無理でしょう。」
文美はすやすやと眠っている孝也を見て呟いた。
「可愛いなぁ。眠っていると天使みたい。
でも泣いておっぱい飲んで、出すもの出して、綺麗にしてもらって。
皆そうやって大きくなるんだもんね。
私だって、そうやって大きくしてもらったんだから。
うん。がんばろう。」
孝也の可愛い寝顔を見て、親として育ててもらっているという事を頭に入れて、文美もつられてお昼寝を始めた。
穏やかな昼下がり静かな部屋に親子のすやすやという寝息が聞こえた。
【了】
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