この手を離さないで~天使が紡ぐ赤い糸~

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沙羅は傷つき 二人の三年間を全くの無駄にした彼を憎んだ そして不幸は続くもので 唯一無二の愛情を惜しみなく注いでくれる両親を 去年交通事故で亡くしてしまったのだ 母の誕生日に父とディナーに出かけたあの悪夢の日 母が運転で二人を乗せた車はディナーの帰り道 酔っ払い運転の大型トラックと接触して 川に車ごと転落してしまい 二人は還らぬ人となった 両親が死んでから分かったことだが沙羅の両親は賢く 父は二十五年に渡って収入の一部を複数の投資信託にあてていた さらに両親の高額の生命保険も下りて 沙羅は金銭面だけはあと二十年は まったく働かなくても十分生活していけるぐらい 裕福にはなったものの 両親が仲良く経営していた このコンビニを手放す気にはなれず 一人素人ながら経営に精を出し 今やこのコンビニは沙羅の生きがいになった そして幸い 村に一件しかないこのコンビニはとても繁盛している 沙羅はもう一度大きなため息をついた 32歳だからと言ってそんなに結婚しないのは おかしいのだろうか? 親友の尚子は5歳と3歳の子供がいる やはり女は結婚して子供を産まないと 一人前として認めてもらえないのだろうか 一人で誰にも迷惑をかけないように しっかり生きているつもりだし これからもそうするつもりだ 普段の平日は忙しくしているし心身ともに健康だ しかしこんな日はやはり優しかった父と母を 思い出すし 誰かと一緒に過ごしたいと思ってしまう あれこれ考え事をしながら片づけていたら約束をした 鍋パーティーの時間をとっくに過ぎていた 今から行って一時間だけ顔を出してその後帰ろう コンビニの裏には両親の建てた素敵な自宅があった この家は沙羅が生まれてから 何年も増築工事をしてとても快適な家に仕上がっていた しかし両親が亡くなった今は 沙羅一人には広くて寂しい家だった お正月はどこにもいかずに一人でゆっくり 自堕落な生活をしようと心に決めていた こうなることを予想してしばらくは 外にでなくても良いように 暖房や食料品は十分に補充している 冷蔵庫はお正月の食料品でいっぱいだし 新年開店まで一人で温かくのんびり過ごしたかった
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