この手を離さないで~天使が紡ぐ赤い糸~

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店内の照明を消してシャッターを下ろし 戸締りをする頃には 沙羅は目も開けていられないほどの吹雪の中を 店から駐車場に停めてある車まで小走りで歩き始めた 雪が顔にあたらないようにマフラーで 顔半分覆いながら真っ白になった幹線道路を見渡す 近所の人と従業員の隆君達が 新年開店の時は雪かきをしてくれるだろう それだけ道路には雪が積もっていた 納品の配送者さん達もこれは苦労するだろう 彼らにも何か美味しいものを作ってやろう 駐車場にも雪が積もって地面は真っ白だった 長靴を履いていなければ とっくに靴はびしょびしょだ 店の前の大型駐車場の小さな温度計が-5°を 表示している 父がこの店と同じくらい大切にして残してくれた 四輪駆動のレンジローパーのワイヤレスリモコン式のキーを押す   すると持ち主にまるで自分の居場所を 教えるかのようにレンジローパーの ハザードランプがチカチカ光った 尚子の家に着くころには車内は 温かい空気に包まれるだろう 沙羅は早くエンジンをかけたくて 飛び込むように車のドアを開け レンジローパーに乗った 人生とは不思議なものだ 両親が残してくれたこの店を一生懸命経営しているうちにあっと言う間に一年が過ぎた 運転席から窓を眺めると 嵐のように舞っている吹雪を見て ふと運転することに不安をおぼえて エンジンをかける手を止めた こんな風に視界が悪い状態で車を運転している 人は今この村ではいないだろう 何もかもが動きを止めているあたり一面真っ白だ 安全な場所にたどり着くことができる確証があれば これもまた美しい光景といえるだろう
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