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「あなたお名前は?」
くしゃくしゃになった肩までの
髪にはまだ溶けていない雪がついている
「ア・・・・アイリーン・・・」
「・・・上のお名前は? 」
少女は手の甲で目をこすった
「・・・・わかんない・・・」
沙羅は怒りが湧いてきた
こんな可愛らしい子をこんな目にあわせた
男をなぐってやりたい
けれども今優先しなければならないのは
この子の世話をすることだ
この子は匂う
きっとお風呂にも入らせてもらえなかったのだろう
「温かいココア飲む?」
少女はずっとすすり泣いているので
返事をしたかどうかよくわからない
沙羅は大きなマグカップに
たっぷりとココアを注いで
アイリーンの口元にカップを持って行ってあげた
アイリーンは一口ごくりとココアを飲むと
目を丸くした
「甘い!」
「おいしいでしょう?全部飲んでいいのよ」
沙羅が言い終わる前にアイリーンは必死で
両手にマグを持ってごくごく飲み始めた
喉が渇いているだけじゃない・・・
この子は空腹なのだ
「ねぇ アイリーンのママはどこにいるの?」
「ママはいない・・・・
スンガンが言ってた 」
「スンガンって誰?
あなたのパパ? 」
「ちがう・・・・ 」
すると突然少女は思い出したかのように
震え出した
「スンガン・・・・
とっても怒ってたの・・・・ 」
アイリーンの話し方を聞いているうちに
この子は中国人?韓国人?と
ふと頭によぎった
どっちみち彼女はずいぶん遠くから
来たのに違いない
「ス・・・・スンガンが
車を停めて降りた時に
あたし・・・別のドアから降りて逃げたの・・・」
アイリーンの下唇が震える
「ゆ・・・雪が降ってて・・・
何にも見えなくて・・・
怖かったけど
もう叩かれるの嫌・・・ 」
ふたたび泣きはじめた
沙羅は胸がムカムカした
この幼ない無抵抗のこんな小さな少女に
大人が暴力をふるうなんて・・・
どんな痛い目にあったんだろう
この子が可哀そうでたまらない
思わずアイリーンを抱きしめて
優しく揺すった
「ス…スンガンは私を探してるかな・・・?」
「どうかしら?」
「お…お願い・・・
み・・・見つからないようにして・・・
た・・・・叩かれるわ・・・
スンガンに叩かれるとすごく痛いのぉ~・・・・ 」
アイリーンが訴えて
沙羅にしがみ付いて泣いた
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