5.「大好き」ではなくて、

1/5
前へ
/78ページ
次へ

5.「大好き」ではなくて、

駅行きのバスを降り、 駅の通路をひとり歩いている。 ホームルームが終わった瞬間、 教室を飛び出してきた。 昼休み以降、彼らと目も合わせなかった。 少しひとりで考えたくて。 強烈なショックを与えてきた、 自分を傷つけてきた相手だと思えば 腹が立つが、事情があったにも関わらず 近づかざるをえなかったのなら 仕方ないのかな、でもやっぱり許せない。 と、頭が混乱していたからだ。 改札を抜け、ホームに続く階段を登る。 佐橋の言葉に何の反応を示さなかった 川瀬の態度も気になっていた。 彼はあの時、どんな表情をしていた? とにかくまだ僕が知らない彼らがいる。 たった3日しか関わりがないのだから 当たり前のこと。 佐橋の言葉だけに囚われてはいけない。 ポケットからスマホを取り出し、 先程届いた母からのLINEを確認した。 『今夜は肉じゃがです、一緒に食べよう』 うちは母と2人暮らし。 夜勤中心の看護師の母と食事をする機会は あまり多くない。 『うん。もうすぐ帰るよ。待ってて』 優しくて勇敢な母は、僕の憧れだ。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加