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友達の作り方
「ねえ、友達ってどう作るんだろう」
僕がそう言うと、近くにいた友人はスマホから目を離し眉を顰めた。
「何、友達が俺だけじゃ不満か?」
「いや、そうじゃないけどさ〜。そういえば自分から友達って作ったことないなって思って」
「自慢かよ」
「違うよ」と言う僕の返事を聞いているのかいないのか、彼は再び視線を落とす。
自分だけじゃ不満か? なんて言いながらスマホにばかりかまけているじゃないか。君こそ僕じゃ不満なのか。と言いそうになったのをグッと我慢した。
実際、僕も同じようなことをするし、その行動を咎めるつもりはないのだ。
「僕と君ってどうやって友達になったんだっけ?」
再び僕が質問すると、次はこちらを見ないまま彼は答える。
「覚えてないな」
「まあ、そうだよねぇ」
僕には彼以外の友人はいないけれど、彼はそうではないのかもしれない。それに、実のところ僕も出会いのきっかけをあまり覚えていないのだ。
人の記憶の儚さを感じる。
「じゃあ、どうやって友達作ってるのか教えてくれよ」
そう言うと、ようやく彼はスマホを鞄にしまった。そして困惑したような、不機嫌なような目を僕に向ける。
「はあ?俺だってお前しか友達いないんだけど」
確かに彼が他の人と親しくしているのは見たことがないかもしれない。
「今までに一度もってことはないだろ?」
「……まあ」
「じゃあ教えてよ」
それでも渋るので、子供のように駄々を捏ねてみれば、周りの視線が気になったのかようやく口を開いた。
過去のことを思い出しているのか、顎に手を当て宙を仰ぐ。
「うーん、そうだな。水35ℓ、炭素20kg、アンモニア4ℓ、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g……」
「いや……僕、錬金術使えないから」
「あ、そう?」
それは彼のよく使うネタだった。騙すつもりならもっと本気で騙してくれないと。ちなみに、彼は過去に一度試したことがあるそうだが、特に何も起きなかったようだ。
そもそも錬金術が使えないのだから当たり前だ。使えたとしてもうまく行くとは思えないが。
彼のふざけた回答に、僕は大袈裟にため息をついてみせた。
「も〜少しは真面目に答えてくれよ」
すると、彼は根負けしたのか、「分かったよ」と言った後にまっすぐ僕の方に向き直った。そして、真剣な口ぶりでこう言う。
「いいか、友達を作るのに必要なのは『気持ち』だ」
意味の分かるような、分からないような。なんだか彼にしては珍しく曖昧な回答だ。
「どういうこと?」
僕が聞き返せば、彼は大真面目な顔で続ける。
「友達が欲しいっていう強い気持ちが必要なんだよ。それがあれば、他は大抵なんとかなる」
まあ確かに、大抵の物事は最初の一歩を踏み出せばなんとかなるものなのかもしれない。なんとなくだが、彼は間違ったことは言っていないように感じた。
「ふーん、そういうもん?」
僕の返事に、彼は頷く。
「そういうもん。今日は流星群が見れるって聞いたし、祈ってみたらどうだ?『友達ができますように』って」
「え、流星群?」
思わず持っていたペットボトルを落としそうになってしまった。流星群に驚いたのではない。現実主義で堅物の彼が流れ星にお願いという発言をしたことに驚いたのだ。
「流星群は見に行くとして。君、流れ星で本気で願いが叶うと思ってるの?」
意外にも、彼は少し恥ずかしそうな顔をしている。彼とはそこそこの年月を共にしてきたが、こんな一面があったとは。
「悪いかよ」
「いや、君って意外とロマンチストだよね」
「なんかムカつくな……」
そう言いつつも、彼が本気で怒っている感じはしない。彼のロマンチストな一面に付き合うのも悪くないだろう。
「じゃあ今日の何時に集合する?」
彼は時計を見ながら少し考えると、
「そうだな……19時くらいで良いんじゃないか? 前に見た時はそのくらいの時間に行ったし」
そう言った後に、「何年も前の話だけど」と付け加える。
「へぇ、前にも見たことあるんだ。お願い事はしたの?」
「してたとしてもお前には言わない」
「ケチ、禿げてしまえ」
「お前が禿げろ」
——そして19時の少し前。僕は隣町にある山の頂上にいた。
やはり星を見るのならなるべく空気の澄んだ場所がいい。決して高い山ではないが、冬の山頂は今の僕たちに行ける一番の特等席だ。
「おー、先についてたのか」
僕が到着してから5分後に、彼も到着した。あと3分ほどで19時だろう。
「まあね」
そう返事をした僕を見て、彼は首を傾げる。
「あれ、お前荷物そんだけ?」
「え、うん。何か必要だった?」
望遠鏡だろうか。正直高いものは持っていないし、流星群なら肉眼で観れるだろうと思い、飲み物以外は持ってきていなかった。そんな僕に、彼は呆れたように笑って言う。
「いや、まあそんなことだろうと思って持ってきておいたぞ」
そう言って取り出されたのは、何かの塊。泥だろうか。一体それが流星群を見るのになぜ必要なのか、全く見当がつかない。
「何それ」
「何それって、粘土人形だけど」
当たり前だ、と言わんばかりの目で僕を見ている。
「えぇ? ついに頭おかしくなったの?」
僕が向ける怪訝な目に、彼は続ける。
「いや、お前が言ったんだろ。友達作りたいって」
「言ったけど。本気?」
「あぁ。前回はこれで成功してるからな」
「そう。ならまあ良いけど……」
どうやら彼は本気らしい。ロマンチストだけではなく、スピリチュアルな一面もあったとは。もし彼が危ないことに手を出したら、止めるのが友人である僕の役割だ。
そんな決意を抱いている僕に、彼は呆れたように言った。
「ならまあ、じゃねえよ。気持ちが大事なんだからな! 新しい友達が欲しいなら本気で願えよ!」
「はいはい、分かったよ」
あいにく僕はスピリチュアルなことや、非現実的なことはあまり信じていない。しかし、彼がここまで僕のことを思っていてくれるとは。
全く、僕はいい友人を持った。
しばらくして空を流れ出した光に、彼との関係が今後も続くようにこっそりと願っておくことにした。
「よし、あとは時間経過だな」
流星群を見終わった後、粘土人形を持って満足げに彼は頷く。
「ちゃんと友達が欲しいって祈ったか?」と聞かれた時は、君と末長く友人でいたいなんて答えるのは照れ臭かったので、適当に頷いておいた。
「それはさておき、その人形に魂でも宿るの?」
僕の質問に、彼はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「まあ見てなって。そのうち、こいつもお前みたいに流暢に話し出すかもな」
一体何が起きるというのか。もしかしたら次の日にはあの粘土は指人形にでもなっているかもしれない。
その時は彼の劇場を楽しく観せてもらうとしよう。
「分かった。楽しみにしておくよ」
しかし、彼の期待に反してその粘土人形が話すことはおろか、動くことはなかった。
僕はてっきり指人形で「僕が君の友達さ!」なんて言い出すのかと思っていたので、なんだか拍子抜けだ。
そして彼は「もしかしたらってことがあるだろ」と、何年もその粘土人形を捨てずにいる。
僕は彼がいつか霊感商法とかに引っかからないかが心配でならない。その時は絶対に僕が止めよう。
そんな決意を僕が抱いている中、彼は粘土人形を見て首を傾げる。
「おかしいな……前回はうまく行ったのに」
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