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「先生、調子はどうかしら?」
部屋に入ってくるなり女は訊ねた。後ろ手に組みながら立つ青年が振り返る。
「ご覧の通り絶好調ですよ」
女はコップをのせたお盆をテーブルに置くと、勉強机に齧り付くモリオのそばに歩み寄った。
「最近本当に頑張ってるわね……まるで人が変わったみたい」
褒められたモリオはペンを持つ手を止める。
「僕、頑張るよ。将来のために今はね、人体の仕組みについて勉強してるんだ」
「えらいわぁ」
女は上機嫌にモリオの頭を撫でた、が、
「あらいけない」
慌てて手を引っ込める。
「情露はまだ使い続けてるんだっけ」
ズボンのポケットからハンカチを取り出す女に、
「もう少しの我慢です」
青年は声に力を込める。
「やる木が育ち切るまで、あと一歩のところまできてますから」
女が苦笑いした。
「先生に任せるわ、でもモリオが風邪を引かないようにだけお願いね」
女は部屋から出ていった。青年とモリオが顔を見合わせる。
「先生、あの女は何を言ってるのかな?」
モリオが腕を組んで首を傾げた。
「やる木である僕は濡れても平気なのに」
「仕方ありませんよ、あの女はモリオ君がまだ人間であると勘違いしてますからね……でもまぁ」
青年は口の端を持ち上げる。
「情を注がれてやる気になったやる木を育て、内側から人間を乗っ取っていく計画は順調です」
青年は笑みを消し、情露を手にした。
「次はあの女に非情の露を浴びせましょうか」
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