やる木に情露

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 マンションの一室で女と青年が向かい合っていた。 「先生、お願いだから何とかして」  女が潤んだ瞳で青年を見た。 「大丈夫ですよお母さん、私にお任せください」  青年はスーツの裾を正して白い歯を覗かせる。 「さすがは凄腕家庭教師! 頼りになるわぁ」  女は表情を輝かせると、 「ほら、モリオ」  首を捻り、ベッドに寝そべる少年の名を呼ぶ。 「あなたからもお願いしなさい」 「はぁい、おなしゃーす」  モリオは漫画雑誌に視線を固定したまま気のない返事をした。女が盛大にため息をつく。 「情けない……ダラシのない息子でごめんなさいねぇ」 「いえいえお気になさらず」  呆れ顔の女に青年は微笑む。 「これは僕も育てがいがありそうです」 「でも先生」  女が口元に手を添え、青年に身を寄せた。 「母親の私が言うのもアレだけど……モリオは中々手強いわよ? 家にいる時は漫画とゲームばっかりだし、まともに勉強机に向かってるところなんて最近見た覚えがないわ」 「心配いりません」  青年はガッツポーズを作ると、 「とっておきのアイテムがありますから」  脇に置いてあるビジネスバッグを探った。 「モリオ君を立派に育てる鍵は……これです!」  言い放つ青年に女は目を丸くする。青年が手にしていたのは、何の変哲もない青色のジョウロだった。    
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