やる木に情露

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「ええっと」  青年とジョウロを見比べ、 「このジョウロは一体?」  女は首を傾げる。 「これはただのジョウロではありません」  青年がジョウロを掲げる。 「心の『情』を(つゆ)として注げるジョウロ……つまり、『情露』なのです」  真剣な眼差しで語る青年に、 「はぁ」  と、女は間の抜けた声を漏らす。 「元国語教諭なだけあって想像力も豊かなのね」 「冗談ではありませんよ」  青年は即座に返した。 「これを使ってモリオ君の内に眠るやる気になる木、『やる木』を育てるのです!」  青年の気迫に押され、 「な、なるほど、よく分かったわ」  女が仰け反りながら小刻みに頷く。 「それで、その情露はどう使えばいいの?」  女に訊かれ、青年は人差し指を立てる。 「ポイントはただ一つ」  青年が情露の持ち手を握り、 「相手に注ぐ『情』をイメージするのです」  目を瞑った、直後――水滴が跳ねるような音がした。 「あら!?」  女が目を見張る。いつの間にか本体上部の穴ギリギリまで、情露に水が溜まっていた。 「このように自分の奥底から湧いて溜まった情の露を」  漫画に夢中なモリオのそばに立つと、 「あとはかけるだけです」  青年は情露を傾け、モリオの頭に情の露を浴びせた。            
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