やる木に情露

2/4
前へ
/4ページ
次へ
「ええっと」  青年とジョウロを見比べ、 「このジョウロは一体?」  女は首を傾げる。 「これはただのジョウロではありません」  青年がジョウロを掲げる。 「心の『情』を(つゆ)として注げるジョウロ……つまり、『情露』なのです」  真剣な眼差しで語る青年に、 「はぁ」  と、女は間の抜けた声を漏らす。 「元国語教諭なだけあって想像力も豊かなのね」 「冗談ではありませんよ」  青年は即座に返した。 「これを使ってモリオ君の内に眠るやる気になる木、『やる木』を育てるのです!」  青年の気迫に押され、 「な、なるほど、よく分かったわ」  女が仰け反りながら小刻みに頷く。 「それで、その情露はどう使えばいいの?」  女に訊かれ、青年は人差し指を立てる。 「ポイントはただ一つ」  青年が情露の持ち手を握り、 「相手に注ぐ『情』をイメージするのです」  目を瞑った、直後――水滴が跳ねるような音がした。 「あら!?」  女が目を見張る。いつの間にか本体上部の穴ギリギリまで、情露に水が溜まっていた。 「このように自分の奥底から湧いて溜まった情の露を」  漫画に夢中なモリオのそばに立つと、 「あとはかけるだけです」  青年は情露を傾け、モリオの頭に情の露を浴びせた。            
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加