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近年は日本でもハロウィン文化が浸透してきたらしいが、僕が渡米する前は、ハロウィンなんて全く根付いていなかった。昔読んだ小説では、挨拶の「トリック・オア・トリート」すら通じないと考えた著者が「いたずらか、ごちそうか」と強引に訳している場合まであったくらいだ。
だから僕にとって初めてのハロウィン体験は、英語圏におけるハロウィン。アメリカ生活ではカルチャー・ショックに何度も見舞われるけれど、ハロウィンもその一つとなった。
アメリカの研究所で働きはじめた一年目、ハロウィン当日の朝。
「今日はハロウィンだから、昼休みは会議室で仮装パーティーだよ! ケンは何を用意してきた?」
同僚の言葉に、僕は困惑してしまう。
そもそも職場の昼休みにパーティーという点からして、僕には違和感だった。アメリカに来たばかりの頃も、昼休みに偉い人の誕生日でサプライズ・パーティーがあったりしたから、少しは慣れてきたつもりだったが……。
さすがに『仮装パーティー』には驚いた。ここ、職場だよね? 白衣に着替えて研究する場所だよね?
「そうか、ケンは何も準備してないのか……。まあ、そういう人もいるからさ。とりあえず、お昼は会議室に集合だよ!」
陽気なアメリカ人に言われたので、半ば仕方なく、会議室へ行くと……。
いつもはセミナーや研究報告に使われる会議室が、完全にコスプレ会場と化していた。吸血鬼、狼男、幽霊、ゾンビといった、ハロウィン定番の怪物系だけではない。お姫様とかアメコミのヒーローとか、怖くも何ともない格好の人もいる。
お化けカボチャのような、ハロウィンらしい飾り付けまでは用意されていないが、だからこそ余計に、ハロウィンというより単なるコスプレ・イベントっぽく感じてしまうのだった。
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