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二年目からは僕も、お昼の仮装大会に参加するようになった。
といっても、あまり凝ったコスチュームは用意できない。購入したのは、それっぽい仮装用のマントと蝶ネクタイ、口に装着する白い牙だけ。自前の白ワイシャツと黒スーツに組み合わせて、さらに、髪もオールバックに撫でつけてみた。
これだけで、吸血鬼コスプレの出来上がり! かかった費用は、日本円換算で数百円!
その程度の仮装なので、いざ会議室へ行くと、
「吸血鬼なら、せめて血糊くらい塗りなよ……」
と、苦笑されてしまうほどだった。
でも一応は自分も仮装した上で、同僚たちの気合の入ったコスチュームを目にするのは、なかなか楽しい時間だった。それぞれ、いつもの白衣姿からは想像できない外見になっており……。
「ハッピー・ハロウィン、ケン!」
背後からの声に振り返ると、同僚女性の姿があった。
薄桃色のワンピース・ドレスは、レースみたいな布地に見える。でも中の下着とか、下に着ているかもしれない服とか、特に透けてはいないので大丈夫。レースっぽく感じるものの、実際にはそこまで薄い生地ではないようだ。
頭の上には輪っか、背中には大きな翼も付いている。しかし僕が目を奪われたのは、そこではなかった。ドレスはノースリーブであり、いつもは白衣に包まれている二本の腕が、完全に露出していたのだ。ちょっとドキッとしてしまう。
「やあ、アン。いつもと全く違う雰囲気だね。素敵だよ!」
「ありがとう、ケン。可愛らしい天使でしょう?」
誇らしげな笑顔の天使姿を、僕は改めて見つめ直す。
「うん、本当に可愛いね」
完成状態までは想像できなかったけれど、彼女が本日『天使』に変身すること自体は、昨日の時点で聞かされていた。
アンと僕は昨日、一緒にハロウィン・ショップへ買い物に出かけたのだから。
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