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「え、え?誰だお前!?」
「派手な着物の女だなー。どこの子だ?」
「どこの子だっていいじゃないか!お夏も遊びたいんだから!」
「まあ、いいけど」
お夏が彼等に溶け込むのはすぐだった。お夏は誰より足が速くてかけっこでは誰にも負けなかったし、木登りも上手にできたものだから。
それと、他の子の反応をみるに、お夏はそれなりに“器量良し”だったらしい。他の子を迎えに来た親の一人がそんなことを言っていた。
「じゃあ、またね!」
「おう、またなー」
三日に一度くらいだったが、母はお夏を町に出して遊ばせてくれた。お夏が子どもたちと遊ぶ時間をどれほど楽しんだかは語るまでもあるまい。
そう、そんな明るくて楽しい時間が、いつまでも続けばいいと思っていたのである。ある時、一人の子が暗い顔で言い出すまでは。
「もう、お夏とは遊ばねえ。おれ、遊んじゃいけねえっておっかあに言われたんだ」
少年は語った。
先日のこと。お夏を不審に思ったら母親の一人が、お夏の帰り道をつけていたというのだ。お夏はそれに気づかず、屋敷の裏から帰宅してしまった。
その結果、バレてしまったのだ。お夏がどこの家の子であるのかということが。
「おめえ、陰間茶屋の子だったんだな」
「かげまちゃや?何それ?」
「知らねえのか?男が男に体を売る薄汚え店だ。しかも、おめえの家は男に女の格好をさせて売る気持ち悪い店だろう。そこの家の子なんてろくなもんじゃねえ」
お夏は何も知らなかった。
そもそもあの屋敷には女は自分ひとりだけ。男と女がこの世にはいることを知っていても、それがどう違うかなんて子どもが読む本に詳しく書いてあったはずもない。周りにいる者たちがみんな、女の格好をさせられた男だった、なんてどうして気づくことができるだろう?
とにかく、これだけは理解した。
男に子供は産めない。ならば、自分がずっと母だと思っていたその人は本当の母親ではないのだと。
だが。
「おめえの親は誰だ?陰間茶屋の主人の子か?それとも薄汚え陰間どもの子か?どっちにしたって関わっちゃならねえ奴らだ、クソの臭いが移るんだとさ!だから……」
「だったら、なに?」
「は?」
「確かに……お夏はなんも知らなかった。自分はなんも知らずにあの屋敷にいただけだ。でも、これだけは知ってる」
『一つだけ、忘れてくれるなよ。お前が誰であろうと、父親が誰であろうと、おっかさんはお夏のことを誰より愛してるってことを』
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