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遠くなっていく意識。比例するようにして増していく浮遊感。
貴方の声も、もう聴こえない。
未だに握ってくれているであろう手の感触も、すっかり消え失せてしまった。
最初で最後となるであろう、死の感覚。眠りに就く時と酷似しているなと、ボンヤリ考える。その思考力も、すぐに失われていくのだが。
さて、次のない眠りになると分かっていても、長年当たり前のように寝て起きてを繰り返してきた人間だからだろうか。それとも、まだ死にたくない気持ちが強いからなのか。
完全に意識が落ち、思考力も消えてしまう直前に。“ボク”は脳裏に2つの言葉を浮かべた。
「貴方の行く末を見守れたらな」
「死後の世界はどうなってるのかな」
次なんてない。死んだ人間に、次を思う資格なんてある訳がない。
そう、思っていた。
……思っていた、はずなんだけどなぁ。
「聖、起きなさい。そろそろ遅刻するよ!」
「……え」
何もなかったかのように目が覚めて。
「ねえお母さん、――はどうなったの?」
「え、誰よそれ。夢で見た理想の恋人?」
「えっ」
貴方の存在“だけ”が消えたこの世界で。
「ちょ、聖ちゃん!? た、たた魂の形が半分に……!」
「ええ!?」
魂の形が変わったと、所謂“見える”友人に騒がれて。
しかし、生活自体は全く以前と変わる事なく、普通に生きていけるだなんて。考えてもなかった。
かつて愛した貴方だけが存在しない、生き地獄のような世界。
呪うぞ、神様。
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