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「ひじりん、何か最近明るい表情が増えたね」
学校で次の授業の準備をしていると、親友にふとそんな事を言われた。
「そう?」
「間違いなく。何か良い事あったでしょ」
まあ、確かにその通りだよな。ボクにとって、とても良い事があったのは。
自然と口角が上がってしまう。そのぐらい、嬉しい出来事だった。
「うん。とびきり良い事があった」
「ふーん、そこまで言い切るなんて珍しいね」
“彼”が元の世界へ戻り、凄まじいスピードで退院して日常へ戻ったのを見届けたのが、確か数日前である。
その夜、ベッドに潜り込んだ“彼”の近くを背後霊らしくフヨフヨ浮かんでいると、不意打ちのような形で話しかけられた。
「幽霊って、本当にテンプレ通り宙に浮かべるんだな。壁抜けも可能だったりするのか、聖」
暫しの間目をパチクリさせたボクは、何が起こったのかを理解すると、霊体である事を忘れて“彼”に抱き着いた。
ボクの身体が“彼”をすり抜けず、何も問題なく触れられた事には流石に驚いたし、少し会話を試みると、“彼”にはボクの言葉が聞こえてないと分かって、すぐさま落ち込む羽目になったが。
「まあ、霊体の聖が見えるようになっただけでも大きな収穫だよ。前までは認知すらできなかったんだし。ここから慣らすなり、訓練するなりで更に事態は好転するかもだし」
全く持ってその通りである。少なくとも姿が認識できていれば、ボディランゲージと表情で何となく意思疎通をする事も可能だし。
「あとは俺の魂に同化している奴らとの対話、聖の肉体がある世界へ行けるかどうか試す、聖が霊体でも話せるようになる……うん、やる事が山積みだな。しばらくは忙しくなりそうだ」
そう口にしながらも、どこか嬉しそうな表情を浮かべる“彼”を見て、胸の奥がキュンとしたのはおそらくバレていない。
っと、思い出すと今この場でもニヤニヤしそうだ。自制しなければ。
「で、何があったのさ。まさか男絡みだったりして」
「ふふふ、そのまさかと言ったら?」
「いやめっちゃビックリするよ!? だってひじりん、これまで全く男に興味なかったじゃん。え、本当に男絡み?」
実際興味は一切なかったから、彼女の反応も仕方のない事である。
既に想い人がいる状態のボクは、この世界の男に何を言われても全く相手にしていなかった。だからこそ、その衝撃は途轍もない物になるだろう。
この世界の親友は、恋してるボクを知らないから尚更だ。
「この前、本当に久しぶりに会えたんだよね〜」
「えと、ひじりんが好きな人に?」
「そう! 3年ぶりとかだったかなぁ」
「3年……って、小学生ぶりじゃん。え、私知らなかったんだけど? ひじりんに好きな人がいるなんて全く知らなかったんだけど? 私でも知らないって事は、絶対他の人も知らないよね? 隠すの上手すぎない?」
「器用だからね、ボク」
「くっそ腹立つ言い方だけど事実だから何も言えないっ!」
そうやって賑やかに話していると、少しずつ会話の内容を耳にした友人たちが集まってきた。
みんなかなり驚いており、口々にボクの想い人についての情報を聞き出そうと質問を投げかけてくる。
それに対し、ボクも笑顔で受け答えしていく。
ああ、本当に久しぶりだな。こうして心から笑いながら、友人たちと楽しく会話するのも。
「いつからその人の事が好きなの?」
「小学1年生から現在進行系!」
「なっが。え、凄いね聖。目移りしないんだ」
「“彼”以上の人を知らないからねぇ、ボク」
「聖ちゃん、その人のどこが好きなの?」
「全部……って言っても答えにならないか。敢えて言うなら、自分を殺しかねないぐらい優しくて甘々なとこかな。あと瞳が宝石みたいにキラキラしてるのも好き!」
「はわぁ……聖ちゃんから凄い量の幸せオーラが見えます。是非とも会ってみたいですね、聖ちゃんの好きな人に」
「あ、良いよ。みんなも会ってみる?」
ボクの発言で、一瞬だけ時が止まった。
目をパチクリさせるボクをよそに、友人たちが顔を見合わせて何かを小声で話すと、みんな同じような表情で大きく頷いた。
「どったの?」
「「「「なんでも」」」」
「そう? あ、流石に1人ずつにしようか。いきなり全員で押しかけたら“彼”も驚いちゃうし」
友人たちがどんな思惑で“彼”と会おうとしているのか、ボクには分からない。まあ、こちらも考えてる事はあるが、口にしてないのでお互い様だな。
さて、今のうちに“彼”に何て説明するかも考えておいた方が良いな。
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