プロローグ

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プロローグ

幸花(ゆきか)! 起きなさい!! もう7時過ぎてるわよ!!」 「うぅ〜ん、あと1時間だけ……」 「そんなこと言ってたら遅刻するわよ!!」 母にガバッとひよこ柄の布団を剥がされた幸花は 瞼を擦りながらスマホの時間を見る。 7時30分 ん? もう一度瞼を擦るが時間は変わらない。 ……。 「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!!」 幸花の悲鳴が野田家に響いた。 「おはよう、幸花」 制服に着替えた幸花は 父の言葉を無視して玄関の扉を開けた。 「行ってきます!」 急がないと遅刻である。 幸花は無我夢中で走る。 春の爽やかな風が幸花の頰を撫でた。 空は青く、優しい光が降り注いでいる。 幸花は風の気持ちよさに一瞬目を閉じた。 ようやく学校までたどり着いた幸花は 教室の前で立ち止まり息を整えた。 「おはようっ!!」 教室に入るとたくさんの友人が挨拶を返してくれた。 「おはよう、幸ちゃん」 親友の千佳がにっこり笑う。 「危なかったー! 遅刻するかと思ったよ!」 「もう幸ちゃんったら」 クスクス笑う千佳に釣られて笑う。 「そういえば、国語の課題やってきた?」 「えっ! 課題なんてあったっけ!?」 「あったよ〜!」 冷や汗がタラタラと流れる。 どうしよう、課題の存在を忘れてた。 その後、急いで課題をやる羽目になったが 結局間に合わず、先生に怒られるのであった。 幸花は自分の名前が好きだ。 幸せな花。 名付けてくれた両親に感謝しているほどに。 名前の通り、幸花は幸せだ。 たくさんの友人もいて家族とも仲が良い。 苦しい時もあるけれど、友人や家族がいるから 頑張れる。 だけど何かが足りないようなそんな気持ちを 小さい頃から覚えていた。 「美月さん、いえ、今は幸花さんでしたかね」 聞き覚えのある声に振り向くと 笑顔を浮かべた七三分けの男が立っていた。 「あなた誰?」 男はその質問には答えずに口を開いた。 「幸花さん、幸せですか?」 「一体何の話ですか? まあ……幸せですけど」 男はうんうんと笑顔のまま頷く。 「それは良かった。 幸花さん、また会いましょう」 男の姿が薄くなっていき、見えなくなった。 「えぇっ??」 意味がわからない。 今のは何だったの?? でもなぜか幸花は笑っていた。 なぜ笑っているのか自分でもよくわからない。 でも「また会えて良かった」と 自然と口から溢れでた。 それから美月は大学に進学して 充実した日々を送っていた。 友人に囲まれ笑顔の絶えない日々が続いていた。 すれ違いで失った友人もいるが 幸花は今を大切にしたくて 後ろを向かなかった。 そのポジティブさが幸花自身の心を救っていたのだ。
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