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第8回転生「姫」
「ポチ、大分大きくなったわね〜
植木鉢を突き破って根っこ出てきてるものね」
ポチ(世界樹)は身長165センチの
美月の背を越える高さになった。
葉も拳大の大きさに成長して人々が鮮明に見えるようになった。ここから読んだ人は言葉の意味がわからないだろう。
「そうですね〜。そろそろ庭に地植えしますか」
「えっ、ここに庭なんかあるの?」
「ありますよ」
白い空間を山吹がスライドさせるとカーテンが開くように視界が開けた。
そこには殺風景な黒い大地が広がっていた。
「うっわ〜!すごい広い〜!なんもない〜」
「さて植え替えしますかね」
山吹が何かを薙ぎ払うように手を振ると
大きな爆発音と共に砂煙が上がった。
「へ?」
徐々に砂煙が収まってくると
大きな穴が空いているのが見えた。
山吹何者!?
美月は自分も何かヘマをしたらああなるの
ではないかとガタガタ震える。
「さて美月さん」
「ヒィィィッ!こ、殺さないで!!」
「何を仰ってるんですか?
異世界転生のお時間ですよ」
「……あ、異世界転生ね、なら良かった。
いや良くはないんだけども良かった……」
「では美月さん、良き人生をお送りください」
「はぁ……どうせバッドエンドよ。
もうわたしは期待することをやめたの……」
美月は重い足取りでドアの中へと消えていった。
「山吹ーーーっ!!!!」
アイスを食べようとしていた山吹は盛大にアイスに向かって顔を突っ込んだ。
美月がいきなり勢いよく抱きついてきたからである。
「……美月さん、どうしたんです?」
冷静を保ちながら顔のアイスを拭う山吹。
しかし目は笑っていない。
「今回はなんとね!ハッピーエンドな世界に
転生だったの!大当たりだよ!」
「良かったですね。美月さんが幸せそうで何よりです」
しかし棒読みである。
今回の世界はね、中華風な世界華玉だった。わたしは姫として生を受けた。
日本人だったときと同じような黒髪に茶色い瞳は
親近感を覚えたなあ。
名を月花宮凛風というの。わたしの母は皇帝の妾で他の妃たちに
親子で虐げられてきたわ。わたしはきょうだいたちが
着てるような豪華な着物も着ることが許されず
皇帝は面倒ごとを避けるかのようにわたしの扱いを無視して、母に夢中だった。母も皇帝に愛想を尽かされぬように必死で、わたしのことを愛してくれていたもののどこか上の空なところがあった。
15歳になったある日、側妃にいじめられて
雑巾で床を拭いていると誰かの足がぶつかった。
「ご、ごめんなさい!!」
顔を上げて驚いた。
輝く金髪に美しい青い瞳。
この国では見ない組み合わせの色を
持つ青年だったから。
「こちらこそすまない」
そう謝ってくれて、優しさに触れることがなかったわたしは涙を流した。驚いたと思うのに
青年は突然涙を見せたわたしの話を聞いてくれた。わたしが姫だということを話すと
彼は今までの態度を許してほしいと謝ったけど
わたしはそんな堅苦しいものいらないと思っていた。
だから今まで通り接するように彼、夜桜楼に言った。何度か宮中で彼の姿を見かけたわ。
最初は挨拶するだけだったけど最終的には
お茶をする仲になった。そして恋心を抱くようになっていったの。でも幸せそうなわたしを側妃は許すはずがなかった。ある日突然わたしは意識を失った。
理由はわたしの紅茶に毒が入っていたから。
彼はそんなわたしを助けるため山の頂上に咲くとされる薬草仙花を採りに行って薬にして飲ませてくれたの。奇跡的に助かったわたしは
お互いの想いを確かめ合い、
夜桜楼と共に生きていくと決意した。
そして、彼の国で結婚式を挙げて幸せに暮らした。
100歳までね。
「寿命をまっとうされたんですね。良かったです。」
山吹は心から祝福した。
彼女とは長い付き合いだ。
美月が幸せだとこちらも嬉しくなる。
「ふふふー。彼の最期を見届けられなかったのは
残念だけどハッピーエンドを迎えられて
本当に良かったわ!」
「ええ、まるでおとぎ話のような
ロマンチックなお話でした。」
「ファンタジー要素も出てこなかったし
もしかしたら次もワンチャンあるかも!?」
「ふふふ、そうかもしれませんね。
そういえば見せたいものがあるんです」
山吹は白い空間をスライドさせると
茶色い世界が広がっていた。
「ん? 何これ?」
「これはポチです」
「ポチぃ!?」
外を覗くと美月を3人並べても足りないほど
横幅の太い巨大な樹が枝をあちらこちらに張り巡らせていた。葉の上にある人々が3センチほどの
小人サイズに見える。
「随分大きくなったわね……」
「光陰矢の如しと言いますからねぇ
あ。葉が1枚枯れました。
世界がひとつ滅んだようです。」
「淡々と言わないでよ。
なんか悲しくなってくるわね……」
山吹と美月は虚しさを感じつつ巨大樹を見上げていた。
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