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第9回転生「ヴァンパイア」
「ハム子ちゃーん、ご飯よ〜」
美月はハムスターのハム子を手のひらに乗せて
ひまわりの種を差し出す。
ハム子は小さな手でひまわりの種を持ちポリポリと
食べ始めた。
可愛い〜!癒される〜!
ホクホクしながらハム子を眺めていると
背後に山吹の気配を感じた。
「山吹……アレの時間ね?」
「はい、アレの時間です」
「うふふ、前回は
ハッピーエンドだったし楽しみだわ〜!」
山吹は何かを確認するように黒本を開く。
「……そうですね。ハッピーエンドだといいですね。
転生するのも今回を含めてあと2回ですし」
「そうね。それじゃあ行ってくる!」
「行ってらっしゃいませ」
山田は白い空間を開き、植え替えたポチを眺める。
「おや花が咲いてますね」
白い花をいくつか摘み水色の透き通った
花瓶に挿した。
花弁は5枚あり、まるでイチゴの花のようだ。
可愛い花である。
「美月さんは喜んでくれるでしょうかね」
あと1回の転生で美月との関わりは断たれてしまう。
だから少しでも思い出作りをしたかった。
「あと1回……ですか……」
こんなにも自分が
落ち込んでいることに気づいて驚いた。
「ただいま」
「おや、美月さん。おかえりなさいませ」
美月にドヨーンとした雰囲気が漂っていたので
山吹は今回は駄目だったのだなと察した。
「美月さん、今回の転生は……」
「バッドエンドよ。前回みたいに
ハッピーエンドの世界が良かったのに!!
山吹のバカァァァッ!!!」
胸ぐらを掴まれ揺さぶられる。
「申し訳ないです。ですが転生先は神様がお決めに
なるので私はどうしようもできないのですよ」
「パワハラ、いえゴッドハラスメント!!」
荒ぶる美月に山吹は花瓶に手を向けた。
「まあまあ美月さん。ポチの花でも見て
心を落ち着かせてください」
「ポチの花って単語意味わからないわね……。
わぁ!可愛い花! ここにスマホがあれば
写真撮るのになぁ」
「残念ですがここは撮影禁止ですので。
美月さん、転生先はいかがでしたか?」
美月は深くため息をつき、ソファにドガッと座った。
「それはもう最悪だったわよ」
わたしが転生したのは『エルヴィーラ』という世界。
この世界にはヴァンパイアと人間が存在する。
わたしはヴァンパイアのセレーネとして生を受けた。
古くからヴァンパイアと人間達は対立していた。
ヴァンパイアは人間の血を吸い、最悪殺してしまう。
そんな彼らを人間が許すはずもなかったの。
人間達は吸血鬼を退治するヴァンパイアハンター
という仕事を作り、わたし達を駆逐していった。
わたし達家族は人間に見つからないような
森の奥に住んでいたのだけどいつまでも見つからないとは限らない。
ハンターに見つかり両親が殺されてしまった。
ひどい。わたし達は悪い
ヴァンパイアなんかじゃないのに!!
ただただハンターが憎かったわ。
わたしはクローゼットから飛び出して
ハンターの血を啜った。
わたしは血の味が苦手だったけど、
我慢して彼の血を飲み干した。
彼が倒れるともう1人のヴァンパイアハンターは
恐れをなして逃げていったわ。
わたしは両親の亡骸を抱きしめて妹と泣いた。
その隙にわたしの胸を何かが貫いた。
それは銀の弾丸だった。
激しい痛みがわたしを襲いもがき苦しむ。
死んだと思っていたヴァンパイアが
わたしに向かって銃口を向けていたの。
「逃げなさいマリア」
「でも、お姉ちゃんが!!」
「いいからっ!!」
妹を逃すと、視界がボヤけて
ヴァンパイアハンターの笑い声が聞こえたのを最後に
わたしは命を落としたの。
またバッドエンドだったわ。最悪。
ファンタジーハラスメントも大概にしてくれない?
神様にクレームつけといて?
「ふふふ、かしこまりました。
あと1回の転生ですからハッピーエンドな世界が
当たるといいですね」
「……最後の異世界転生、か。
山吹とももう会えなくなるのね。」
しんみりとした気持ちになる。
山吹は当初腹が立つだけの相手だったが
いつしか特別な存在になっていた。
特別な存在とは一体何なのか
美月にもわからない。
山吹との関係性に名前をつけるとしたら
一体何だろうか。
「ええ、そうですね。寂しくなります。
10回目の転生を終えたら美月さんは
やっぱりファンタジー世界をご希望で?」
「バカ。んなわけないでしょー!」
山吹と笑い合いながらも、美月の目尻には
涙が浮かんでいた。
もっと一緒に笑い合っていたかった。
だけど、それは叶わぬ願いなのだ。
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