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第2回転生「魔獣」
「さあ、異世界転生のお時間ですよ」
ソファでゴロゴロしていた美月はため息をつきつつ、立ち上がった。
「今度はまともな転生先なんでしょうね」
「ええもちろん」
山吹は転生先が載っている黒本を片手に微笑む。
「ちょっと、その本見せてみなさい」
「これは極秘情報ですので
いくらモニターとはいえ見せられませんよ」
山吹はヒョイっと黒本を取られないように上に掲げる。
「チッ」
「それでは良き人生を。……いえ獣生ですかね。」
「ん?」
「いえ、何でもありません。行ってらっしゃいませ」
山吹が『愛と復讐の女』を観ていると項垂れた美月が白い扉から出てきた。
「おや、お帰りなさい。美月さん」
「山吹? 転生先が魔獣だったんですけど?
まともな転生先じゃなかったんですけど?」
「ええ。そのようですね」
「そのようですね。じゃないよ!!
こちとら森で命の危機に晒されながら生活してたんだぞ!!」
「ふむ、詳しくお聞かせ願えますか?」
美月は淡々とした話しぶりの山吹にイラッとするが
転生先について話し始めた。
▲▲▲
わたしは森の中で魔獣『レインボーベア』として
生を受けた。しばらくはお母さんやお兄ちゃんと
生活してたんだけど、大人に近づいていくわたし達に
お母さんは「そろそろ独り立ちの時期かしらね」
と言うの。わたしとお兄ちゃんは独り立ちして
それぞれ森で生きていくことになった。
でも、森での生活はそんなに甘くはなかった。
『ファイヤードラゴン』が火を吐きながら
追いかけてくるし、『ウォータースネーク』に
殺されかけるし、もう散々な生活だったわ!!
そんなある日、わたしは襲ってきた魔獣から
助けてくれた人間に恋をする。
美しい銀髪に赤い瞳を持つアレスという男性だった。
アレスはわたしの虹色の姿に感嘆のため息をつき
「君に一目惚れした」と一緒に暮らすことになったんだけどアレスはとんでもない男だった。
「君の美しい皮を剥いで売れば高値で売れるに違いない」
逃げようとしたけど遅かった。
彼の魔法で拘束され、わたしは
生きたまま皮を剥がれ死んだ。
ねえ、酷すぎませんか??
まったく最悪の異世界転生でした。
もう異世界転生なんてしません。
「まあまあそう言わず。次はきっとハッピーエンドを
迎えられますよ。」
「もうあんたを信じない……」
「気分転換がてらにお茶でもいかがですか?
知り合いが旅行のお土産の紅茶を送ってきまして」
「へえーじゃ貰おうかな」
美月がテーブルに座ると虹色の液体がティーカップに
注がれた。トラウマを掘り起こさないでほしい。
「やっぱ飲むのやめる」
「おや、飲む前からお気に召しませんでしたか?」
「わたしの前世は『レインボーベア』ですけど?」
「……ああ。そういうことですか。うっかりしていました。ではオレンジジュースはいかがです?」
美月が頷くと虹色のオレンジジュースが出てきた。
「何でやねんっ!!!」
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