第3回転生「魔女」

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第3回転生「魔女」

「ポチ、ご飯ですよー」 「なになに。犬でも飼い始めたの?」 「いえ、これです」 山吹が手に持っているのは植木鉢。何やら紫色の植物が芽吹いている。 「いや、ポチって言うからてっきり犬でも 飼い始めたのかと!!」 まさか植物に名前をつけるとは思いもしなかった。 しかも紫色。嫌な予感しかしない。 「ねえ、それ変な植物じゃないでしょうね」 「変な植物なんかじゃありませんよ。 これは世界樹です。」 山吹は愛おしそうに目を細め ジョウロで水をあげている。 「あーそう。……え?今世界樹って言った??」 「ええ」 「なんてもの育ててんのよっ!世界が誕生しちゃうじゃんっ!」 「まあいいじゃありませんか」 「いいじゃありませんかじゃないの!! はあ……山吹って結構変人よね……」 「ふふふ。では、異世界転生に参りましょうか」 「今度はファンタジー世界じゃないでしょうね。 次ファンタジー世界に転生させたらぶっ殺すからね?!」 「ご安心ください。次の異世界は ファンタジー世界ではなく美月さんの住んでいた 世界に似た世界ですよ。」 山吹はにこりと笑った(ように見える) 地球に似た世界なら、 ファンタジー要素も出てこないはずだ。 地球で魔法使いやら超能力者やら 見たことがない。 そう思うとなんだかワクワクしてきた。 「ふーん。ならいいけど。 じゃあいっちょ行ってきますか!!」 美月はうーんと背伸びをして白い扉を開けた。 「行ってきます」 「行ってらっしゃいませ。美月さん」 「『愛と復讐の女』もいよいよ佳境に入りましたね。 まさか、ヒロインが愛人の娘だったとは予想外です。 そして父が悪魔だったとは……」 「山吹〜?」 「おや、その声は美月さん。おかえりなさいませ」 「転生先が魔女だったんですけど? わたしファンタジーは嫌だって言ったよね??」 人差し指で山吹の頬を突き刺す。 「いたた。ファンタジー世界ではありませんが」 「だから、ファンタジーそのものが 嫌だって言ってんのよ!このパワハラ男! いやファンタジーハラスメントね。 ファンハラ男!!」 ぎゃんっと吠える。 「まあいいじゃありませんか。 それより異世界転生の感想を聞かせてください」 「……ったく。わかったわよ。 話せばいいんでしょっ!」 ▲▲▲ わたしが転生したのは地球とよく似た世界。 安倍家の次女ミカとしてわたしは生を受けた。 だけど、ミカにはある秘密がある。 ミカは小さい頃から魔法を使うことができたの。 両親はわたしを忌み嫌い、魔女だと罵り、 兄すらもわたしを避けた。だけどただ1人、 わたしの心に寄り添ってくれた人物がいるわ。 それは安倍家の長女、エリカ。 「たとえ、ミカが魔法を使える不思議な妹だとしても わたしはあなたの味方よ」 そう言ってわたしを抱きしめてくれた。 エリカちゃんマジ天使。 ある日、わたしは怪我をした子猫を助けるために魔法を使ったの。だけど迂闊だった。 翌日わたしの秘密が学校中に知れ渡ってしまったの。 友人達はわたしから離れていき、 クラスメイトからは罵られいじめられた。 部屋でひとり泣いているとエリカが 温かいココアを持ってきてくれた。 「大丈夫よ。わたしだけはあなたの味方だから」 だけど、そんなエリカを襲ったのは学校での孤独。 みんな妹が魔女だと知ると離れていってしまった。 だから、わたしは最後の魔法を使った。 全世界からわたしの存在を消す。 エリカからさえもわたしの記憶を消した。 そして、エリカが友人達と笑い合っているのを 見守り、交通事故で命を落としたの。 「……今回はしんみりするお話でしたね……」 「そうね。エリカだけがわたしの大切な人だったわ」 「……」「……」 「あー! この空気苦手!! しんみりするより、ドラマでも観よ!」 「『愛と復讐の女』ですね。 まさかヒロインが愛人と 悪魔のハーフだとは思いませんでしたよ。」 「おい、クソネタバレ男。ぶっ殺すぞ?」
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