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第6回転生「シンデレラ」
「あれ?ハムスターなんていたっけ?」
美月はゲージの中で回し車を回している
白いハムスターを覗き込む。
「ああ、美月さんが異世界転生している間に
飼い始めたんですよ。かわいいでしょう」
「てか、この空間、生き物飼えたんだね……
どこから持ってきたのよ」
「こないだぶらっと下界に降りた時にホームセンター
に寄って買ってきたんですよ」
「ぶらっと下界にってそんな散歩みたいに……」
美月は引き気味に唇の端をピクピクさせる。
「おや、もう異世界転生の時間ですか」
山吹が腕時計を見る。
果たしてこの空間に時間など存在するのか。
「えぇ……」
美月はゲンナリした声を漏らした。
「頑張ってください美月さん。
これを乗り越えればあと4回の転生ですよ」
「まだ……まだ4回もあるというの……
絶対ファンタジー絡みじゃん。やだよ」
「うーむ。では異世界転生してくれば
わたしから何かプレゼントしましょう」
「ホント?」
美月の瞳に仄かな光が宿った。
「ええもちろん。
私は約束を破らない男ですから」
「じゃ、行ってくるっ」
現金な美月は白い扉の向こう側に飛び出した。
「小さな生き物というのは本当に癒されますね」
へそ天をして寝ているハムスターを
眺めているとバーンっと
大きな音が聞こえてきた。見ると美月が
ムスッとした顔で扉の前に立っている。
「おや、おかえりなさい、美月さん」
「おかえりなさいじゃないわよっ!
またファンタジー世界だった!
ファンタジー世界のシンデレラだった!!」
「ふむ、詳しくお話を聞かせていただきましょう」
▲▲▲
わたしは童話『シンデレラ』の主人公エラとして
生を受けたの。わたしたちはいつも
義姉や継母にいじめられてた。
……もう気づいてるかもしれないけどシンデレラは
ふたりいる。わたし達双子なの。
双子の妹の名前はエル。
グリーンの瞳に金髪の三つ編みのわたしよりちょっと
おっとりした顔立ちだけどわたしにそっくりだった。
わたし達はいじめで受けた心の傷を
お互い慰め合いながら暮らしていたわ。
ある日、お城で舞踏会が開かれることになって
エルはとても喜んでいた。なぜならその舞踏会は
この国のすべての女性が参加できるものだったから。
だけど継母や義姉が許すはずもない。
わたし達は継母に物置部屋に閉じ込められて
舞踏会に参加できなくなってしまった。
泣いているエルを抱きしめていると物置部屋のネズミが鍵を持っているのに気づいた。
鍵穴にそれを入れて回すとドアが開いた。
「エル、舞踏会に行きましょう!!」
わたしは急いで母が遺したドレスをエルに着せ
屋敷を飛び出した。
道中で魔法使いを名乗る女性に出会ったわ。
最初は不審者かと思ったんだけど
カボチャを馬車に変えたのを見て
本当の魔法使いなんだと信じることができた。
魔法で母のドレスをリメイクしてもらうと
エルは絵本の中のシンデレラみたいに綺麗になった。
いや、ほんとのシンデレラなんだけど。
物置部屋にたネズミも馬に変身して驚いちゃった。
急いでエルをかぼちゃの馬車に乗せて見送った。
エラは行かないのかって言われたけど
わたしは「エルが幸せになるのを見届けてからでいい」と言って断ったわ。
屋敷に戻ろうとして、魔法使いが言ったの。
「願いを叶えた代償だよ」
そこからの記憶はないから殺されたんだと思う。
シンデレラホント綺麗だったなぁ。
だけど、なんで毎回わたしは死ぬの!?
「それは仕方ありませんね。
前も言いましたでしょう。幸福系は当たる確率が低いので不幸系が続くだろうと」
「だとしても限度があるよ!!」
「まあ次こそは幸せになれるといいですね」
美月は何も気にせず寝ているだけの
ハムスターを見てため息をついた。
「ハムスターは何も気にしないで羨ましいよ……」
「ふふふ。次はハムスターにでも転生しますか?」
「絶対にお断り。
ん?! てかこのハムスター
あのときのネズミじゃない?! 何でここに……」
「そうなのですか?」
「絶対そう。あのときは気づかなかったけど
ネズミじゃなくてハムスターだったのね……」
「不思議な因果もあるものですね。
そういえば、プレゼントをすると
言った件ですが」
何やら山吹はポケットをゴソゴソし始める。
何だろ……。気になるぅ〜。
ま、わたし異世界転生頑張ってるし
プレゼントもらうの当然よね。
美月の手のひらに乗せられたのはお守りだった。
「思ってたんと違う!!!」
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