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この世に神様なんていない。
だから、天使も存在しない。
僕は、土砂降りの雨の中、泥だらけの地面に這いつくばって、号泣した。
歩美とつぐみが死んだ。
酔っ払いの運転するトラックに跳ね飛ばされて、即死だった。
歩美は、僕の初恋の人で、最愛の人で、この世でただ一人の運命の相手だった。
その歩美との間に生まれた愛おしいつぐみ、、。
僕はつぐみを守るためなら、たとえ身を八つ裂きにされ続けようと耐えられる自信があった。
そのつぐみも死んだ。
僕には、何一つ残っていなかった。
「おにいさん、、どこかいたいの?」
僕は、泣き顔を上げた。
そこには、黄色い長靴を履いて、青い傘をさした小さな男の子がいた。
「あなた、、具合が悪いのね、、。救急車を呼びましょうか?」
男の子の母親らしき若い女性が、心配そうに僕の顔を覗き込んで言った。
僕は、何も言えなくて、ただ、また地面にうつ伏せた。
「すみません、あの、、この方が具合が悪いみたいなので、手を貸していただけませんか」
母親の女性が、誰かに声を掛けていた。
すると、僕の両脇に誰か男の人の逞しい腕が差し入れられた。
そして、僕を泥だらけの地面から引き上げた。
「おい、あんた、大丈夫か? 病院に行くか?」
そう言ったのは、引き上げてくれた中年の逞しい男性ではなく、年老いた腰の曲がった老人だった。
いつの間にか、僕の周りには、人だかりが出来ていた。
その人たちを見て、僕は目を見張った。
その人たちの背中には、透き通った羽根が生えていた。
神様なんていない。
だから、本当の天使なんていない。
でも、ほら。
ここには、この世界には、人という天使がいる。
人を救ってくれるのは、神様の使いの天使なんかじゃない。
人という天使だ。
僕は、また生きていけるかもしれないと思った。
end
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